トランプ大統領に対する不信感の一つは「細かすぎる」ことだ。石破総理のように中身が伴わないのに大上段に振りかぶる政治家にも不満があるが、大局観がありそうな政治家がやけに細かいことを口にする。これにもある種の腹立たしさを覚える。Bloombergによると大統領は20日(日本時間21日午前)、自身のソーシャルメディア・プラットフォーム「トゥルース・ソーシャル」に非関税貿易障壁のごまかし(NON-TARIFF CHEATING)と題した投稿を行った。そこにはいくつかの障壁が列挙されている。その中の一つは日本車の検査。保護的な技術規格(ボーリングのボールを使った日本の検査)が6番目に取り上げられている。「日本では20フィート(約6メートル)の高さから自動車にボーリング用ボールを落とし、ボンネットにデント(へこみ)ができれば不合格とされる」と記している。非関税障壁の一例だが、あまりにも細かすぎないか。

石破総理、今度トランプ氏にあったら言ってやれ。「日本人は右ハンドルのコンパクトカーが好きだ。左ハンドルの巨大な車は日本人の好みではない。消費者のニーズに合わせた車を輸出してこい」と。America FirstやMAGA(Make America Great Again)を単純に批判するつもりはない。バイデン前大統領をはじめヨーロッパの首脳やN A T Oがどんなにウクライナを支援しても、プーチンを打ち負かす道筋が見えていたわけではない。ロシア寄りのトランプ氏に不満はあるが、「悲惨な戦争をやめるべきだ」という主張には多くの人が同意するだろう。それでも戦争が止まらない。反トランプ派の批判にもそれなりの正当性はあるが、だからと言ってそれで世界が平和になるわけではない。トランプ派でも反トランプ派でも、どちらが政権を担っても世界が安全になり、人類に平和が訪れるわけではない。地球も人類もすでに深く傷ついているのだ。問題はそこにある。

いま必要なのは人類の未来を考えた大局観だろう。トランプ革命は何を目指すのか。America FirstやMAGAが実現した暁には、その先に何があるのか。それを語るべきだろう。ボーリングのボールを落としてボンネットが凹むかどうか、そんなことは事務方に任せておけばいいではないか。不安が昂じると不満になり、不満が累積すると不穏に替わる。宇宙船地球号ではいま、不穏な空気が漂いはじめている。いずれ非関税障壁どころの話ではなくなるだろう。誰がやっても地球と人類の未来は明るくない。ドイツの次期首相になるメルツ氏は憲法を改正し、軍事力の強化に乗り出した。メルツ氏は旧来のE Uの指導者に比べると、かなり強そうな印象を受ける。歴史上の困難な時期には必ず強い指導者が現れる。トランプ氏がボーリングボールに拘っている裏で、人類の未来に強い逆風が吹きはじめている。ヒットラーが登場しないことを祈るのみだ。