▽日銀は利上げ路線維持の見通し、シナリオ変更の必要性乏しい-関係者
伊藤純夫、藤岡徹
- 物価目標達成時期は後ずれも視野、米関税が世界・日本経済を下押し
- 先行き不確実性は大きい、中心シナリオ維持もリスクを丁寧に説明へ
日本銀行は、先行き2%の物価安定目標が実現していくシナリオを維持し、緩やかに利上げを進めていく従来の政策スタンスを継続する公算が大きい。複数の関係者への取材で分かった。
関係者によると、米関税政策によって先行き不確実性が高まる中で、金融政策は現状維持が決まる見通しだ。一方、物価目標の達成時期の後ずれも視野に議論が行われる可能性があるという。会合直前まで入手可能なデータや情報を精査して判断する。
米関税政策は米中間の貿易戦争の激化や、日本の輸出の減少などを通じて世界・日本経済の下押し要因になると日銀は分析している。上乗せ関税や対米交渉を含めて関税措置自体の前提条件によってさまざまなシナリオが想定されるが、現段階で物価目標実現シナリオの修正が必要な状況にはないという。
日銀は4月30日ー5月1日に開く会合でトランプ米政権による関税政策が、世界・日本の経済や物価に与える影響について集中的に議論する。見通し期間を2027年度まで1年延長する新たな経済・物価情勢の展望(展望リポート)に反映させる。

ポイントは堅調に推移している賃金・物価への影響だ。現段階では人手不足を起点とした賃上げモメンタムや、基調的な物価上昇率の改善が腰折れするような状況までは想定しづらいと関係者は指摘した。関税の直接的な影響は製造業が中心であることに加え、リーマンショックやコロナ禍のように需要が大幅に減少するショックに発展する可能性は小さいとみられている。
物価見通し下振れも
新たな展望リポートでは、経済成長率(実質GDP)と消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)の見通しについて、下方修正となる可能性があるという。足元までの消費者物価は、コメなど食料価格がけん引する形で日銀の想定よりも強めで推移しているが、米関税措置に伴う景気の下振れが需給の緩和に伴う物価の押し下げ要因になる。米関税措置を巡って進行している円高や原油安、4月からの高校授業料の実質無償化なども追加の下振れ要因になるという。
日銀は前回1月の同リポートで、実質GDPの前年比について25年度を1.1%増、26年度を1.0%増、コアCPIはそれぞれ2.4%上昇、2.0%上昇を見込んでいた。関係者によると、初めて示す27年度のコアCPI見通しは2%近辺になる可能性が大きいという。
会合では、中心的なシナリオ自体に大きな変更が想定されない中で、米関税政策によって拡大しているリスクについて、丁寧な説明が行われる可能性が大きい。経済・物価の下方リスクの強まりが意識される中、26年度までの見通し期間の後半としている現在の目標実現時期は、後ずれする可能性もあるという。
