トランプ氏が大統領に就任して3ヶ月が過ぎた。本来なら様子見の蜜月関係になるはずだった大統領とメディアの関係は、ロケットスタートに押されて一方的に大統領のペースで進んでいるように見える。だが、世界中の主要メディアの“本音”はアンチ・トランプに傾いているようだ。その論拠の一つは今朝ブルームバーグが配信したコラム、「トランプ氏が取り組む6つの戦争、全て敗色濃厚-ブランズ」だ。執筆者は同社コラムニストのHal Brands氏。6つの戦争とはウクライナ戦争におはじまりハマスとイスラエルが血みどろの戦いを続けるガザ戦争。一時停戦が実現したが人質の解放をめぐってイスラエルが再度ハマス殲滅を掲げる現在の戦争、これが3つ目だ。これにイランの核開発を阻止するための戦争が水面下で着々と進んでいる。現在は交渉による解決策を探っている。トランプ氏は「前進している」と評価するが、潜在的に大戦争に突入しかねない危機を孕んでいる。これが第4の戦争だ。

4月2日に仕掛けたトランプ関税が第5の戦争。強権国家・中国の包囲網づくりが目的だが、中国の頑強な抵抗にあって進むも地獄、退くも地獄の様相を呈している。これに絡んで同盟国や近隣国を巻き込んでAmerica Firstの条件整備に乗り出したのが広範な6番目の戦争だ。世界中との商取引で一手に赤字を引き受けている米国の事情は理解できる。だが仕掛けた戦争がいずれもトランプ氏の強烈な個性、言い換えれば独裁者的な手法によって推進されているため、価値観を共有する西側陣営に致命的な不信感を植え付けてしまった。「危機管理はどれだけ優秀な人にとっても困難だが、トランプ氏のチームはそれとは程遠いようだ。国防総省の混乱ぶりは、関税政策を打ち出したり、引っ込めたりする姿、国家安全保障会議(NSC)はほとんど機能していないように見える」(ブランズ氏)と痛烈な批判に晒されている。

日本はどうか。気になるのは中国包囲網への対応だ。国内政局は与野党を含め中国派とアンチ中国派の対立が激しくなっている。石破政権は総理を筆頭に岩屋外務大臣、林官房長官など主要閣僚の多くが親中国派と見られている。これに対し旧安倍派を軸とする自民党保守派にはアンチ中国派が多い。次期総裁の有力候補の一人である高市氏はアンチ派だ。連立を組む公明党は党全体が親中国。国難を背負った対米交渉の最中に公明党の斉藤代表は訪中した。野党の色分けは増税派と減税派ほどには鮮明になっていないようだ。日本の政界もトランプ氏が仕掛けた6つの戦争に大きく左右される。現政権に親トランプは見当たらない。対米交渉を統括する赤沢氏は、トランプ氏から見れば交渉相手というよりは、右も左も分からない“少年”のような存在だろう。「日本の将来を左右する」(石破総理)交渉の割に準備不足の感は否めない。これはトランプ氏の「弱さ」とはまったく別の日本の「弱さ」だろう。