▽【米国市況】S&P500上昇、一時2%安も終盤反転-ドル143円近辺

Rita Nazareth

  • 米国債は長期債がアンダーパフォーム-指標や四半期定例入札を意識
  • ドルは月間で2022年11月以来の大幅安-円は月間で4カ月連続下落

米国株は上昇。トランプ大統領の貿易戦争という重しで米経済が低迷するとの懸念が強まる中、日中は軟調に推移していたものの、引け間際に反転。S&P500種株価指数はこれで7営業日続伸となった。

株式終値前営業日比変化率
S&P500種株価指数5569.068.230.15%
ダウ工業株30種平均40669.36141.740.35%
ナスダック総合指数17446.34-14.98-0.09%

  1-3月(第1四半期)の実質国内総生産(GDP)速報値が減少したことに反応し、S&P500種は一時2%余り下げる場面もあった。一方、消費支出の大幅増加と主要インフレ指標の鈍化が別のデータで示された。センチメントは午後に入り改善。米国が中国に対し、複数のルートを通じて積極的に働き掛けているとの報道を受け、貿易協議が建設的なものになるとの期待が広がった。

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S&P500種は上昇出所:ブルームバーグ

  米連邦公開市場委員会(FOMC)はリセッション(景気後退)を防ぐために、政策対応に動くと一部投資家は見込んでいる。短期金融市場では、年内4回の0.25ポイント利下げが100%織り込まれた。

  シティー・インデックスのファワド・ラザクザダ氏は「軟調なデータで利下げは早まる可能性がある」と指摘。「FOMCは減速する経済を支えるため、より早期に利下げに踏み切る可能性が高まっている。一方でデータの弱さは関税を巡るトランプ大統領の姿勢を軟化させ、より迅速に合意締結を促す可能性もある」と分析した。

  ナベリアー&アソシエーツのルイス・ナベリアー氏は、今後の展開は関税の動向に大きく左右されるとみる。

  「貿易合意が立て続けに発表されれば、楽観は強まり、米連邦公開市場委員会(FOMC)は早期に利下げに踏み切る可能性が高い」とし、「特に中国との瀬戸際外交が解消されればなおさらだ。ただ状況が数週間から数カ月にわたって長引けば、サプライチェーンへの打撃や短期的に不可避なインフレにより、スタグフレーション懸念が広がり、株式にとっては大きな弱気材料となり得る」と述べた。  

  米経済は1-3月に縮小。22年以来のマイナス成長となった。関税発動前の記録的な輸入急増や個人消費の低調が響いた。トランプ米大統領の貿易政策がもたらす波及効果の最初の兆候が示された。

関連記事:米GDP、2022年以来のマイナス成長-関税発動前に輸入急増 (2)

  一方、米連邦準備制度理事会(FRB)が重視するインフレ指標である個人消費支出(PCE)価格指数は、前月比変わらず。横ばいはほぼ1年ぶりとなる。食品とエネルギーを除くコア価格指数も前月比変わらず。ほぼ5年ぶりの低い数値となった。

関連記事:米PCE価格指数、ほぼ1年ぶりの横ばい-関税前の駆け込み消費 (3)

  イートロのブレット・ケンウェル氏は、こうしたデータは少なくとも、労働市場が軟化し始めてもFOMCは利下げできないとの懸念を和らげる可能性があると指摘。ただ当局者らはインフレ沈静化のさらなる証拠を確認する必要がありそうだと、ケンウェル氏は述べた。

  「インフレが本当の意味で自然に鈍化しているのであれば、それは明るいニュースだ」としつつ、「他の経済指標で最近見られる軟化を踏まえると、インフレ鈍化は需要減少が原因だと懸念する投資家もいるかもしれない」と語った。

国債

  米国債市場では、長期債がアンダーパフォーム。経済指標が強弱まちまちだったことから政策金利の道筋が不透明になった。また財務省が中長期債発行のガイダンスを据え置いたことで、一段の支援を期待していた一部投資家の間で失望感が広がった。

国債直近値前営業日比(bp)変化率
米30年債利回り4.68%2.90.63%
米10年債利回り4.17%-0.6-0.14%
米2年債利回り3.61%-4.1-1.12%
  米東部時間16時50分

  1-3月のGDP統計発表後、30年債利回りは上昇し、2年債利回りは低下。GDPは市場予想を下回った一方、個人消費は予想を上回った。価格指数は予想を上回る伸びだった。また米財務省は中長期債の発行規模を少なくとも「向こう数四半期」据え置くとするガイダンスを維持した一方、既発国債の買い戻しプログラムを強化する可能性を示唆した。

関連記事:米四半期入札、中長期債発行のガイダンス維持-買い戻し強化も (1)

  BMOキャピタル・マーケッツの米金利戦略責任者イアン・リンジェン氏は「われわれは短期的に経済データのさらなる軟化を警戒しており、成長見通しに対する投資家の不安が強まる中、金利低下を見込むスタンスに傾いている」とリポートに記した。

  四半期定例入札の発表後、10年債利回りは一時5ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇して4.23%を付けた。ただその後は下げに転じた。

  米財務省は来週実施する四半期定例入札で、3、10、30年物国債を計1250億ドル(約17兆8500億円)相当発行すると発表した。

  ウェルズ・ファーゴのアンジェロ・マノラトス、ウィリアム・ギボンズ両ストラテジストはリポートで、「ガイダンスに変更はなかったが、長期ゾーンの反応を見ると、市場が財務省に一段の対応を期待していたことがうかがえる」と分析。「流動性支援としての買い戻し拡大や、加重平均満期(WAM)短縮に関する議論を期待していた市場参加者もいたと思われる」と続けた。

為替

  外国為替市場ではドル指数が小幅高。ただ月間ベースでは、2022年11月以来の大幅安となった。

為替直近値前営業日比変化率
ブルームバーグ・ドル指数1223.601.410.12%
ドル/円¥143.10¥0.770.54%
ユーロ/ドル$1.1323-$0.0064-0.56%
  米東部時間16時50分

  ブルームバーグ・ドル・スポット指数は月間で4%低下した。米国の貿易政策を巡る懸念と景気見通しの悪化が背景にある。

  クレディ・アグリコルのバレンティン・マリノフ氏は「1-3月のGDPデータはスタグフレーションの様相を呈しているが、それでも市場はFRBに対する極めてハト派的なスタンスを見直す可能性がある」と指摘。「足元のデータは、当面は動かず、金利を据え置くことにメリットがあるとするパウエル議長の見解を裏付けている。そうした背景から、為替市場の反応はドルにややポジティブとなっているが、値動きは非常に限定的だ」と述べた。

  円は対ドルで続落。ニューヨーク時間は1ドル=142円台後半から143円台前半での推移となった。月間では4.8%下落し、4カ月連続安。2020年終盤以来の長期下落局面となった。

原油

  原油先物相場は3日続落。3週間ぶりにバレル当たり60ドルを下回って終えた。石油輸出国機構(OPEC)と非加盟の産油国で構成するOPECプラスが、長期的な増産体制に入る可能性が浮上したために売りが続いた。月間ベースでは、2021年11月以来の大幅安。

  ロイター通信によれば、サウジアラビア当局は同盟国や業界関係者に対し、低価格が長期間続いても同国は耐えられると伝えた。この報道により、サウジがOPECプラスを主導し、来週の会合で再び増産に踏み切るのではないかとの懸念が一段と強まった。

  CIBCプライベート・ウェルス・グループのシニア・エネルギー・トレーダー、レベッカ・バビン氏は「これは市場の懸念を裏付けるもので、サウジの急激な増産姿勢が一時的ではなく、長期戦略の転換であることを示している」と指摘。サウジが2020年のように生産を劇的に増やす動きに出るのかどうかが問題だと述べた。

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WTI先物の月間騰落出所:NYMEX

  OPECプラスは4月初旬、5月からの供給を日量41万1000バレル増やすという予想より大幅な増産を決定した。これは従来の生産計画で合意した増産幅の3倍に相当する。

関連記事:OPECプラス、予想上回る増産の5月実施で合意-原油は一段安 (1)

  モルガン・スタンレーは原油の需給が徐々に「顕著な供給超過」に陥ると予測しており、JPモルガン・チェースもOPECプラスが来週の会合で、計画されている生産拡大を加速させる可能性があると警告している。

  OPECプラス以外でも、カナダやガイアナの採掘業者などが供給を増やす見通しで、世界的な供給だぶつきへの懸念が強まっている。

  ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物6月限は前日比2.21ドル(3.7%)安の1バレル=58.21ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント6月限は1.8%安の63.12ドルで取引を終えた。同限月はこの日が最終取引日だった。中心限月の7月限は3.5%安の61.06ドルで終了。

  金相場は続落。ただ、トランプ大統領の通商政策で米経済が下振れするリスクを経済指標が示したため、下げ渋る展開となった。

  米経済は22年以来のマイナス成長となった。一方、PCE統計では、個人消費は大きく増加したものの、インフレ指標は前月比横ばいだった。

  市場では、リセッション(景気後退)を避けるために米金融当局が年内に0.25ポイントの利下げを4回実施するとの見方が強まっている。金利低下は通常、利息を生まない金にとってプラス材料になる。

  FTSEラッセルのグローバル投資調査部門ディレクター、ロビン・マーシャル氏は「金は国境を持たないグローバル資産で、米国債やドイツ国債のように国家と強く結びついたソブリン資産とは違う」と指摘。こうした国境を超えた独立性が投資家を引き寄せているとの認識を示した。

  金相場は今年に入って25%余り上昇し、先週にはオンス当たり3500ドルを超えて史上最高値を更新した。この上昇基調は、金連動型上場投資信託(ETF)への資金流入、各国中銀の積極的な買い入れ、中国における投機的な需要の兆候といった要因にも支えられている。

  金スポット価格はニューヨーク時間午後2時49分現在、前営業日比14.61ドル(0.4%)安の1オンス=3302.80ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物6月限は、14.50ドル(0.4%)安の3319.10ドルで引けた。

原題:Stocks Pare Slide as Weak Data Put Pressure on Fed: Markets Wrap(抜粋)

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