▽プーチン、涙目…!アメリカとウクライナ「鉱物資源協定」で明らかになった「トランプの本音」
やっと合意署名
ウクライナのスヴィリデンコ第一副首相と、アメリカのベッセント財務長官が、アメリカ・ウクライナ復興投資基金設立に関する合意(これまで「鉱物資源協定」と呼んできたもの)に署名した。
ブルームバーグによると、ウクライナ側はまず包括的な合意を締結し、詳細は後で詰めることを望んでいたが、米国側はすべての要素を盛り込んだ合意を主張した結果として、今回包括的な内容として締結されたとのことである。
そうすると、今回の合意で全ての取り決めが決まったということになり、これによってこの件に関しての、アメリカとウクライナの関係が確定したということになる。
ベッセント米財務長官は「この合意は、自由で主権を有し、繁栄するウクライナに重点を置く長期的な和平プロセスにトランプ政権がコミットしていることを、ロシアに対して明確に示すものだ」とコメントした。
このコメントが触れている「自由で主権を有するウクライナ」という言い方の中に、アメリカから独立してモノが言えるウクライナを、アメリカが尊重している姿が示されている。また同時に、ウクライナをロシアの属国とはみなさないという姿勢も示されていると見るべきだ。
こういう評価を私がすると、ここで使われている「自由で主権を有する」なんて、単なる枕詞じゃないのかと思う人も多いのではないかと思う。そうした疑念は当然ではあるが、今回の合意の内容を見れば、実質的にもそうなっていることは確認できる。
今回の合意では、ウクライナの領土および領海内に存在する全資源がウクライナに属することを確認し、どの場所で、何を採掘するかはウクライナ側によって決定されることになる。だから、アメリカが「あの資源をよこせ、この資源をよこせ」と、植民地主義丸出しの要求を行うことなど、全く認められていないのだ。
トランプのマッドマン戦略
私はこれまで何度も、トランプが口先で何を言うかに惑わされてはいけない、トランプはマッドマン戦略(狂人を装って本音を表に出さずに交渉する戦略)を採用していて、口先のことをまともに取り合うと、その意図を完全に誤って捉えてしまうことになる、最終的にまとまった協定文などにこそ、彼の真意が明らかになると伝えてきた。
その結果が、この合意案だと見れば、トランプの真意が反ウクライナ・親ロシアではなかったことがわかるのではないか。
もし、トランプの最大の目的が、ウクライナの鉱物資源をアメリカのものとして奪い取ることだったとしたら、ウクライナ側に譲歩するにせよ、こんな合意を締結するわけがないのだ。最大の目的が果たせないようにする合意なんて、結ぶはずがないではないか。
2月28日に、ホワイトハウスでトランプとゼレンスキーの会談が言い争いになって破綻したために、結果的に結ばれることがなくなった鉱物資源協定があったことは、多くの人が覚えているかと思う。私は記者たちの面前でのあの言い争いの上の破綻は一芝居だったのではないかと疑っているが、それはともかく、あのときの鉱物資源協定の中身と今回の協定の中身は、全く同じ方向を向いたもので変わりはない。
つまり、トランプ政権のウクライナ政策の方針はずっと一貫したものがあるのに、それとはぜんぜん違う話をトランプが発言してきたと考えないと、辻褄が合わないのだ。
小芝居⁉ ローマ法王葬儀での首脳会談
フランシスコ教皇の葬儀が行われる直前に、トランプとゼレンスキーのトップ会談が行われたが、私はあれが転機になったと見るのは大間違いだと思っている。表面的に見せてきたロシア寄りの姿勢とは違う姿勢に切り替えないと、今回の協定締結があまりに不自然に思われてしまうために、トランプ・ゼレンスキー会談で一芝居をうったと見るほうが正しいだろう。
長期にわたって続けてきた事務方での折衝がない限り、こんな合意ができることはありえないからだ。フランシスコ教皇の葬儀に際してのトランプ・ゼレンスキー会談の直後から突然議論の方向性が変わり、今回の合意案が最終的にまとまったと信じるほうがおかしいのだ。わずか3~4日で、トランプが急転換した方針のもとで条文が作られ、双方の国ですり合わせが行われ、主要閣僚のみならず、法務部門のチームの検討・承認まで、アメリカとウクライナの両国で一気に行われたというのは、どう考えてもありえないからだ。
しかも会談時間はわずかに15分だった。これだけ内容が深刻で、扱うべきことが多岐にわたっている話が、わずか15分話したくらいで急転直下することなどありうるわけがない。
つまり、唯一合理的な理解は、現実のアメリカとウクライナの水面下の交渉が、今回の合意の方向でまとめられている一方で、トランプはそれとは全く合わない主張を表面的には繰り返して、私たちを欺いていたというものしかないのだ。
これまでトランプが口にしていたこととまるで違う
さて、「基金」は50対50の割合で設立され、アメリカとウクライナが共同でこの基金を管理し、いずれの側にも優越的な決定権は付与されず、両国間の対等なパートナーシップが反映されることになっている。
今回の合意には、国営企業の民営化やその管理体制の変更を規定していないので、国営の「ウクルナフタ」や「エネルホアトム」のようなウクライナのエネルギー関連企業は引き続きウクライナ国家の所有として残るということを、ウクライナ側はわざわざ発表している。
つまり、ウクライナの国営企業を力ずくで民営化させ、そこにアメリカ資本が加わることによって、こうした企業をアメリカ側が乗っ取るようなことは、全く起こりえないのだ。
ロシアのウクライナ侵攻開始以降にすでにアメリカ側がウクライナ側に提供してきた膨大な支援について、ウクライナ側が借金のように背負ったもののように扱い、アメリカ側がその回収を求められるようにするというのは、トランプが繰り返し話してきた話だ。だが、今回の合意はこれについてもきっぱりと否定している。
ここでも、これまでトランプが表に出て発言してきた話とはまるで違う話が、今回の協定案の中にしっかり盛り込まれていることがわかる。繰り返すが、トランプの口先の言動に惑わされてはならない。それとはぜんぜん違うところに本音があり、その本音に近いところに着地させるように周囲を欺いていくというのが、トランプ流なのだ。
自由と主権を大いに尊重
さて、設立する「基金」のウクライナ側の資金源は、新規のライセンス(重要鉱物資源、石油・ガス関連プロジェクト)によって得られる収入の50%に、原則としては限定されている。
当たり前だが、このライセンス料の支払いはアメリカ側であり、アメリカ側が支払ったライセンス料の50%が、ウクライナ側が拠出した資金として扱われるのだ。つまり、ウクライナ側は新規のライセンスをアメリカ企業に認めるだけでよく、特に別途の資金を用意して拠出する必要はない。
ウクライナで既に始まっているプロジェクトや既に予算に組み込まれている収入などから、なんとかやりくりして基金の原資を用意する必要はウクライナにはない。そうでありながら、どこで何を採掘するかの決定権はウクライナ側に委ねられているのだ。
ウクライナの自由と主権を大いに尊重した内容だとしか考えようがない。
他方、アメリカ側が提供する基金は、金銭に限られる必要はなく、ウクライナへの防空システムの供与など、新たな支援の形でも可能だとされている。
トランプはウクライナに対する軍事支援に否定的な発言を繰り返してきたが、「基金への拠出」を理由にして軍事支援を行う道を開いたと見ればいい。
またこれは、この基金が必ずしも収益性を目的としたものではないことを示唆していると見るべきではないか。
ウクライナに供与された防空システムは収益を生むわけがないどころか、ロシアの攻撃などによっていつ損傷を受けるか、破壊されるかもわからないものだろう。
また、基金への拠出という形態で渡された武器について、ウクライナ政府は代金を支払う必要があるのだろうか。武器が消費・損耗されて消えた場合、基金の側から見れば損失の発生ということにはなるが、ウクライナ政府から独立した基金が損失を抱えたとしても、ウクライナ政府がその損失を補填する必要などないだろう。
実態は無償の軍事援助
こう見ると、建前は「基金への拠出」でありながら、実態は無償の軍事援助として使える仕組みを創り上げていると見ることもできるのだ。
基金の詳細が現段階では見えていないので、決めつけることはできないが、おそらくはそういうことなのだろう。
トランプをカネの亡者のように見る向きがあり、確かに表面的な発言を重視すればそう見えることは否定しないが、カネの亡者が推し進める合意内容ではまったくないことは、きちんと確認しておくべきだ。
そしてこうしたウクライナへの関与を、アメリカは10年間続けていくとしている。米軍を派遣するようなことはしないが、ウクライナへの後ろ盾としてアメリカが関与することが明確に示されたのが、今回の合意内容だ。
ベッセント米財務長官は、「ロシアの戦争装備に対して資金提供したり、その供与を行った国も個人も、ウクライナの復興から利益が得られないことを明白にしておく」とも語っている。ここにトランプ政権のスタンスがウクライナ側にあり、ロシア側にないことが、明確に示されているとも言えるだろう。
「ロシアはこの戦争に勝てない」
ところで、世界経済が減速する中で原油価格が落ち込み、天然ガス価格も低迷する中で、こうした資源の輸出に頼っているロシアの経済状況は、非常に厳しい状態になっている。
激しいインフレを抑制するために、ロシアの政策金利は年利21%という高水準の状況が半年以上にわたって続いているが、その結果として、ロシア貯蓄銀行(ズベルバンク)と国営VTB銀行の大手2行においても、住宅ローンと無担保消費ローンの滞納が、今年の第1四半期に入ってから急増している。住宅ローンの延滞率は2.6%、無担保消費ローンの延滞率に至っては16.1%にまで上昇している。ロシア経済は決して明るい状態とはいえない。
軍備においてもロシアは明らかな不足感に悩まされるようになっている。
北朝鮮に兵士も武器も頼らなければならなくなっていて、しかもそれを公然と明らかにしてまで北朝鮮に気を遣わなければならなくなっているのだ。
恐らくこの夏ないし秋の段階で、戦車などに使う砲身がロシアから枯渇することになるだろう。すでに装甲車は在庫がつきかけていて、一般車両やバイクを使って兵員の輸送を行うことが普通になっている。
元米陸軍中将で、ウクライナ・ロシア担当の米大統領特使となったキース・ケロッグは、「過去1年半にロシアは数十万の兵を失いながら、メートル単位でしか前進できていない。ロシアはこの戦争に勝てない」と発言しているが、この見方こそアメリカの本音としての見方だろう。
ロシアに対する態度を厳しく変える
私は、トランプがロシア寄りの姿勢を示していたのは、大国ロシアのメンツを考えて、譲歩しやすい環境を整えてやっていただけではないのかと見てきた。圧迫を加えられる中で譲歩を強いられるような屈辱的な交渉は、プーチンには耐えられるものではなかっただろう。
軍事的にも経済的にもロシアが苦しいことは、プーチン自身が一番よくわかっていたはずだ。ロシアの客観的な立ち位置を理解しているのであれば、必死に交渉をまとめたいと思うものだと、トランプは考えていたのだろう。
だがプーチン・ロシアは、弱みを見せれば退かざるをえなくなるロシア的な政治環境が災いしてか、停戦に向けてのまじめな動きを示さなかった。
トランプはプーチン・ロシアのこのあり方に失望したのではないか。
表面的な発言を見ても、トランプが徐々にロシアに対するスタンスを変えてきているのは、気付いている方も多いだろう。
アメリカのロシア対応は、今後は厳しいものへと変化していくことになるだろう。そしてそれは、プーチン・ロシアの最後になる可能性もあるのだ。