米国とウクライナの鉱物資源に関する協定が調印された。4月30日に米財務省でベッセント財務長官とウクライナのユリア・スヴィリデンコ副首相が署名した。トランプ・ゼレンスキー両大統領が2月28日に署名するはずだったが、調印式前のセレモニーで両氏が衝突、記者団の前で激論となって署名式が中止された。あれから約2カ月、協定の内容も大幅に変更されたようだ。ウクライナにある鉱物資源の探索に向けて米・ウ両国で共同基金を設立する。この基金に両国が半分ずつ出資し、収益は両国に分配される。分配方法など協定の細目はこれから詰めるようだ。停戦が実現していないので、鉱物資源の開発がすぐに始まるわけではない。だが、ロシアが実効支配している地域にも鉱物資源はある。この協定はこうした地域にも及ぶのか、協定の中身には依然として不明な点が多い。

署名・調印のあとで米国が発表した声明には「自由で主権を持ち、繁栄するウクライナを中心とした平和プロセスにコミットしている」とあり、B B Cは「(米国とウクライナの良好な関係を)ロシアに示したものだ」と解説している。協定に署名したベッセント氏も「トランプ大統領は、アメリカ国民とウクライナ国民の間のこのパートナーシップを、両国がウクライナの持続的な平和と繁栄にコミットしていることを示すために構想した」と述べている。2月に記者団を前にした喧嘩腰の激論がまるで嘘だったかのようなコメントだ。この協定が成立したことによって、米国とウクライナの関係はこれから先親密になっていくのだろうか。側から見ているだけだが、個人的には一抹の不安を覚える。メディアの解説によると基金への出資はキャッシュだけではなく現物でもいいのだそうだ。

米国はウクライナが求めている最新のF−16戦闘機を現物出資する意向だと一部メディアが報じている。これが事実ならトランプ大統領はウクライナとの関係強化に舵を切ったということになる。一部専門家の間には、この協定によって戦況はウクライナに有利に傾くとの見方も出ているようだ。経済評論家の朝香豊氏は「トランプ氏はマッドマン戦略をとっている」と指摘する。マッドマン戦略とは、狂人を装って本音を表に出さずに交渉する戦略を指しているのだそうだ。2月の大喧嘩もマッドマン戦略だったということか。個人的にはトランプ氏の本当の敵は中国とみる。親プーチン路線は、中ロのデカップリングを目指したカードの一種。場合によってはこの協定にプーチンを巻き込むこともあるのでは。“手のひら返し”のトランプ氏だ。協定の裏にいろいろな思惑が隠されている気がする。