▽FRB金利据え置き:識者はこうみる

FRB金利据え置き:識者はこうみる

[7日 ロイター] – 米連邦準備理事会(FRB)は6─7日に開いた連邦公開市場委員会(FOMC)でフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を4.25─4.50%に据え置くとした。決定は全会一致。

インフレと失業率の上昇リスクが高まっているとしたほか、トランプ政権の関税の影響に対応する中で、経済見通しが一段と不透明になっているとの認識を示した。

市場関係者に見方を聞いた。

◎利下げ再開は失業率上昇後

<ノースライト・アセット・マネジメントの最高投資責任者、クリス・ザッカレリ氏>

FRBはインフレと、失業率上昇につながる景気低迷を巡る懸念という、相反する2つの方向に引っ張られる難しい状況に立たされている。そのため、失業率が大きく上昇するまで利下げ再開を待たざるを得なくなり、その時点では遅すぎる可能性がある。

市場は景気後退への懸念を強める見込みで、関税一時停止期間が終了する前に何らかの貿易協定が締結されなければ、4月初めのように再び相場が下落するだろう。

◎成長鈍化なら夏に利下げの見通し

<ナティクシス・インベストメント・マネージャーズのポートフォリオストラテジスト、ギャレット・メルソン氏>

FOMC声明が貿易赤字と純輸出に関する文言から始まったのは幾分興味深い。基調的な成長は鈍化しているように見えるにもかかわらず、FRBは政策変更をしなかった。これは受動的な政策引き締めを継続していることを意味する。

夏を通じて成長が引き続き冷え込むリスクは高まっており、6月ないしは7月には利下げに踏み切ることになるだろう。年末まで連続的に利下げを行う可能性もある。

◎スタグフレーションリスクを明記

<グレンミード(フィラデルフィア)のチーフ投資ストラテジスト、ジェイソン・プライド氏>

今回の声明は、スタグフレーション圧力がFRBにとって主要な課題であることを正式に明文化した。第1・四半期の純輸出の大きな変動が堅調な経済を覆い隠していたという認識に加えて、「失業率上昇とインフレ率上昇のリスクが高まったと判断している」という文言の追加が最大の変更点だった。

今後の金融政策の方向性は、「スタグ(景気停滞)」と「フレーション(インフレ)」のどちらがより大きなリスクとして顕在化するかに大きく左右される。経済が比較的良好に推移する場合、関税がインフレに波及する可能性が高く、FRBは年内利下げにより慎重なアプローチを取る可能性がある。一方、総需要が物価上昇や金融引き締めの重圧で弱まり始めた場合、あるいは景気後退の兆しが見られる場合、FRBはより積極的な利下げ路線を取る可能性がある。

◎利下げ再開は9月以降の公算

<オールスプリング・グローバル・インベストメンツのマルチアセット・ソリューションズ・チーム責任者、マティアス・シャイバー氏>

関税に関する継続的な懸念と、それが米経済成長とインフレに及ぼす影響を考慮し、FRBは広く予想されていた通り金利について「様子見」の姿勢を維持した。FRBが次に利下げに動く可能性が高いのは9月もしくはそれ以降とみている。

金利市場は現在、FRBが年内に政策金利を約3.6%に引き下げると予想しているが、多くの要素はインフレと成長のトレードオフの展開次第だろう。成長が引き続き鈍化する公算が大きいことから、FRBは成長を下支えするために金利を引き下げたいと考えるだろう。しかし、短期的には物価上昇によりそれが困難になる可能性が高い。

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▽FRB金利据え置き、インフレと失業率上昇リスクを指摘<ロイター日本語版>2025年5月8日午前 8:54 GMT+9

Howard SchneiderAnn Saphir

FRB金利据え置き、インフレと失業率上昇リスクを指摘

[ワシントン 7日 ロイター] – 米連邦準備理事会(FRB)は6─7日に開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利の据え置きを決定した。インフレと失業率が共に上昇するリスクが高まっていると指摘し、トランプ米大統領の関税政策により経済見通しが不透明さを増し、FRBが対応に苦慮していることが浮き彫りになった。

フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を全会一致で4.25─4.50%に据え置いた。トランプ氏の関税措置の影響を見極める中、FRBは昨年12月以降、政策金利の据え置きを維持。3月に公表した金利・経済見通しでは、年末までに政策金利を50ベーシスポイント(bp)引き下げる可能性が高いとの予想を示していた。

FRBは声明で、経済は全体として「引き続き堅調なペースで拡大している」と指摘。関税導入を前にした駆け込み輸入の記録的な増加が第1・四半期の生産の低下に寄与したとの見方を示した。

労働市場は引き続き「堅調」で、インフレ率は依然として「幾分高止まり」していると、3月の前回声明と同じ文言を繰り返した一方、今回の声明では今後数カ月でFRBに困難な選択を迫る可能性のあるリスクも強調された。

声明は「経済見通しを巡る不確実性は一段と高まった」と指摘。「FRBは二重の使命に対するリスクに注意を払っており、失業率とインフレ率の上昇のリスクが高まっていると判断した」と述べた。

パウエルFRB議長はFOMC後の記者会見で、不確実性が経済政策の決定に影響を及ぼしていると認める一方、経済は依然として好調だと改めて強調。「国民や企業が非常に悲観的な感情に覆われているとはいえ、経済は依然として健全だ」と述べた。

しかし、トランプ氏が最終的にどのような決断を下し、それが裁判や政治的対立を経てどれだけ実現するのかは多くの不確実要素がある。パウエル氏は「その影響の範囲や規模、持続期間は極めて不透明だ」と指摘。「従って、現時点で金融政策として適切な対応が何なのか、われわれが何をすべきなのか全く明確ではない。この状況がどう進展するかはわれわれにも予測できない」と語った。

こうした不確実性により、「より多くのデータを見るまでは、適切な対応が何なのか実際には分からないため、先手を打てる状況ではない」と述べた。

「現在の金融政策のスタンスは、潜在的な経済動向にタイムリーに対応できる態勢を整えていると考えている」とし、「経済の動向次第で」、見通しには利下げまたは金利据え置きが「含まれる可能性がある」との認識を示した。

ジェフリーズの米国担当チーフエコノミスト、トーマス・シモンズ氏は今回の声明について、3月18─19日のFOMC以降にどれほどの混乱が生じ、先行きがどれほど予測不可能になっているかを過小評価しているとの見方を示した。

4月2日に「相互関税」が発表され、その後4月9日にはその発動が90日間延期され、貿易協定と関税免除を巡る報道が錯綜(さくそう)したと指摘。その結果、企業・消費者調査で悲観的な見方が示され、経済見通しやリスクバランスが変化したかを判断するのは不可能な状況だと分析した。こうした状況の下で、パウエル議長の態度は「予想通りあいまいなものだった」と述べた。

ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントの公的投資部門最高投資責任者アシシュ・シャー氏は「当面、FRBは不確実性が解消されるのを待ち、政策を据え置いている」との見方を示した。「4月の米雇用統計が予想を上回ったことがFRBの政策据え置き姿勢を裏付けている。今後は、緩和サイクルの再開をもたらすほど労働市場が弱まるかどうかに左右される」と述べた。

<二大責務へのリスク>

FOMC声明とパウエル氏の会見では、雇用の増加が続き経済は「堅調なペース」で成長しているとして、経済の持続的な底堅さが強調された。パウエル氏は第1・四半期の国内総生産(GDP)の減少について、関税導入前の輸入急増によってゆがめられたものであり、内需を示す指標は依然として伸びていると説明した。

しかし、このデータ自体がFRBの直面するジレンマを浮き彫りにしている。商品購入や在庫補充のための駆け込み需要は繰り返されないとみられ、その一方で需要や投資が弱含み始めている可能性や、それが最終的にインフレと雇用に関する「ハードデータ」にどう反映されるかは不明だ。

パウエル氏は「企業や家計は懸念を抱いており、さまざまな経済上の決定を先送りしている」と指摘した。「この状況が続き、懸念を和らげるようなことが何も起こらなければ、経済指標にその兆候が現れるだろう」と述べた。

FRBの決定を受けて米株式市場は上昇した。米国債利回りは低下し、ドル指数.DXY, opens new tabは上昇した。

トランプ米大統領がFRB批判を強めていることに関連し、パウエル氏は、大統領との面会を求めたことは一度もなく、これまでに行われた面会は全て大統領側から要請があったものだと言明。「私はこれまで一度も、そしてこれからも、どの大統領とも面会を求めることはない。私から面会を求める理由は一切ない。常に先方からの要請だった」とした。

▽情報BOX:パウエル米FRB議長の会見要旨<ロイター日本語版>2025年5月8日午前 5:03 GMT+9

▽米インフレ再上昇せず、ホワイトハウス経済顧問がFRBの懸念に反論<ロイター日本語版>2025年5月8日午前 5:40 GMT+9