クラスナホルカイ・ラースロー氏(2015年5月19日)=AP

上地洋実

 【パリ=上地洋実】スウェーデン・アカデミーは9日、2025年のノーベル文学賞を現代ハンガリー文学を代表する作家のクラスナホルカイ・ラースロー氏(71)に授与すると発表した。アカデミーは作品について「終末的な恐怖の中で、説得力に満ち、先見性のある作品は、芸術の力を再確認させる」と評価した。

クラスナホルカイ・ラースロー氏(2015年5月19日)=AP

 クラスナホルカイ氏は1954年、ルーマニアとの国境に近い小さな町ジュラで生まれた。出版社勤務を経て作家活動に入り、デビュー作「サタンタンゴ」を発表した。共産主義崩壊直前のハンガリーの田舎にある放棄された集団農場で暮らす貧困層の住民たちを、力強く示唆に富んだ言葉で描いた。

 同作はタル・ベーラ監督によって映画化され、終末的な雰囲気を漂わせた芸術性の高い内容で高く評価された。同監督の「ヴェルクマイスター・ハーモニー」でも原作と脚本を務め、人気を得た。

 2000年に国際交流基金の招きで京都に滞在し、寺社建築や伝統的な庭園など日本文化に関心を寄せた。それらの経験を基に書いた「北は山、南は湖、西は道、東は川」(03年)は、「源氏物語」などを踏まえた力強い叙情詩的な物語で、邦訳もされた。その後も日本を訪ね、人間の意識や精神性への理解を深めた。

  ブダペスト商科大名誉教授で言語学者のヒダシ・ユディットさんの話 「人間の持つ感受性、多層的な精神性を表現してきた作家だ。多くの著作を通して、個人とコミュニティーの関係を探究してきており、国際的にも読者を獲得してきた。日本での滞在から着想を得た小説を書いており、日本の読者にとっても親しみを感じられるだろう」

▽ノーベル文学賞のクラスナホルカイさん、経歴に書いた「井上和幸」<朝日新聞デジタル>2025年10月10日 7時00分

 今年のノーベル文学賞に決まったハンガリーの作家クラスナホルカイ・ラースローさん(71)は、京都を舞台にした小説も手がけるなど、日本とのゆかりが深い。遠く離れた極東の伝統文化に関心を深めたきっかけは、繰り返し滞在した京都での、ある能楽師との出会いだった。

 「2000年 井上和幸と初めて出会う」。クラスナホルカイさんはホームページの経歴にそう記している。この年、国際交流基金による芸術家向けの招聘(しょうへい)プログラムで半年間、京都に滞在。知人の紹介で知り合ったのが、観世流シテ方の能楽師、井上和幸さん(23年に死去)だった。

 「お能そのものにも興味はお持ちのようでしたが、おそらく和幸先生の人間性に引かれるところもあったのではないかと思います」と、弟子の河本稚和子(かわもとちわこ)さん(64)はクラスナホルカイさんと出会ったころを振り返る。

 能の家に生まれたわけではな…

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