にわかに具体化した米朝の首脳会談。平昌オリンピックを契機に大胆に「ほほえみ外交」を展開する北朝鮮の金正恩委員長と米国のトランプ大統領、現時点でどちらが優位なのだろうか。個人的にはどう考えてもトランプ大統領より金正恩委員長の方が優勢だという気がして仕方がない。

「最大限の圧力」かけ続けるトランプ大統領の戦略が、北朝鮮の金正恩体制を追い込んだことは間違いない。ギリギリの瀬戸際外交を繰り広げていた北朝鮮も、世界中に広がった経済制裁という包囲網の前に為す術もなく方針転換を余儀なくされた。しかし、ただでは起きない北朝鮮である。方針転換は巧妙であり計算し尽くされていた。平昌オリンピックで平和攻勢をかけ、次に韓国の使節団を迎え入れて金正恩委員長が直接“謁見”、米朝首脳会談への道筋をあっという間に演出した。

トランプ大統領は使節団長を務めた韓国の鄭義溶(チョンウィヨン)国家安保室長の説明を聞いて、その場で金正恩氏との首脳会談を“即断”したという。一連の流れの最大のポイントはこの“即断”だろう。朝日新聞によると米政府内で長年北朝鮮問題を担当してきたジョセフ・ユン北朝鮮政策特別代表が、3月2日に辞任した。同氏は「ホワイトハウスが協力してくれない」と常日頃嘆いていたというから、トランプ政権の分析力もたかがしれている。要するに大統領の一件格好いい“即断”も、専門家の意見を排除した独りよがりの“独断”でしかない。

トランプ政権の弱点はチーム・トランプが機能していないことだ。頼りは独りよがりなトランプ大統領のディール力だけ。一方の北朝鮮は独裁者の金正恩委員長を軸にチーム力は抜群。金日成、金正日と親子3代にわたって世界を相手に騙し続けてきた一族である。トランプ大統領のディール力だけで勝てる相手ではない。おまけに今回は功を焦る韓国の文在寅(ムンジェイン)政権が橋渡し役を担っている。「最大限の圧力」で圧倒的に優位な状況を作りながら、ほほえみ外交に寄り添う戦術に終始している。

首脳会談実現までこれからいろいろなことが起こるだろう。現にトランプ氏の“即断”から一夜明けた9日、ペンス副大統領は「米国が一切譲歩していないにもかかわらず、北朝鮮は(協議の)テーブルに来つつある」(時事通信)と主張した。サンダース大統領報道官も、記者会見で「(非核化に応じるという)北朝鮮の言葉に沿う具体的行動が見られなければ、会談は行われない」(同)と断言した。大統領の“拙速”な決断の修正が始まっているのである。圧倒的に優位なのは「最大限の圧力」をかける側である。この優位性を生かせないようでは韓国もトランプ政権も、歴史に名を刻めないだろう。