参院予算委員会で質問を聞く安倍晋三首相(左)と麻生太郎財務相=国会内で2018年3月14日、川田雅浩撮影

政府が説明する改ざん公表までの経緯

 森友学園に関する決裁文書問題で、財務省が調査結果を公表する約1週間前に首相官邸が改ざんの疑いを把握していたことが判明した。官邸は「最終確認できていなかった」と釈明したが、疑いに気づいた国土交通省が5日に改ざん前の文書を財務省へ提供。一方で政府は国会で「調査中」として12日まで説明を避け続けた。16日から国会審議に復帰する野党はさっそく追及する構えで、政府は対応の遅れからさらに傷口を広げそうだ。

 「よく聞いてください。『可能性』です。(5日の時点では)事実関係が確認できなかったんです」。15日の記者会見で、改ざんの可能性を把握した時点でなぜ公表しなかったのかと問われ、菅義偉官房長官はいらだちを隠さなかった。

 官邸サイドの説明はこうだ。国交省が5日、「文書の一部が国交省に保存されており、書き換え前のものの可能性がある」と、杉田和博官房副長官に電話で報告した。官邸幹部の一人は「その時点ではあやふやな情報だった」と話す。国交省は財務省に対し、実物の写しを提供。杉田氏は翌6日、安倍晋三首相と菅氏に伝えたという。

 しかし、12日に財務省が改ざんの事実を公表するまで、官邸がその「疑い」を明かすことはなかった。首相は国会で改ざんについて「全くあずかり知らない」などと否定していた。菅氏によると、同省が検察から改ざん前の文書を提供されたのは10日で、改ざんだと確認したのは翌11日。首相と菅氏に「確定情報」が届いたのもこの日だった、という理屈だ。

 ただし財務省は、地検から提供される前に、国交省から改ざん前の文書を受け取っており、政府が10日に初めて見たかのような説明には疑問符が付く。さらに8日、財務省は参院予算委員会理事会に改ざん後の文書を示し、「現在『近畿財務局にある』コピーはこれで全てだ」と釈明。本省にあるもう1種類の存在を伏せた。民進党の小川敏夫参院会長は「改ざん前の文書があると分かっていながらウソを重ねた」と官邸や財務省を強く批判した。

 「文書が2種類あるのを事前に知っていた」と最初に認めたのは会計検査院だ。検査院は昨年3月、参院の要請で、森友学園への国有地の貸し付けや売却価格が適正だったかなどの検査に着手。同4~5月ごろ、財務省から改ざん後の文書14件の提供を受けた。

 一方、国有地を管理する国交省は、改ざん前の文書を提出。検査院は貸し付け契約に関する文書2件を見比べて、同じ内容のはずなのに記述が違う、と気付いたという。しかし財務省から「国交省の文書は途中段階で、うちのものが最終版だ」と言われ、改ざんを見抜けなかった。

 これが15日の参院予算委理事会でやり玉に挙がり、与野党議員は「検査院の存在意義を疑う」「なぜ国会に説明しなかったのか。財務省と同罪だ」と反発。検査院は「書き換えに思い至らなかった」と陳謝した。改ざん自体は検査に影響しなかったとしているが、検査院幹部は「前例がなく、疑うという発想を持てなかった。力不足だった」と肩を落とした。

 それでも検査院が12日に「事前把握」に言及したことは、芋づる式に国交省へと波及した。石井啓一国交相が翌13日の会見で説明に追われ、野党議員から「国交省も知っていたのに黙っていた」と批判も出た。改ざんの疑いが濃厚だと示す情報が、政権トップまで事前に届いていたことが発覚し、改ざん問題に新たな疑問が加わった格好だ。【朝日弘行、松浦吉剛】

野党に追及材料 国会論戦、紛糾必至

 改ざん当時の理財局長、佐川宣寿前国税庁長官の招致について自民、立憲民主両党が大筋合意し、国会を欠席していた立憲などの野党が16日から衆参両院でほとんどの審議に復帰する。官邸が改ざんの疑いを事前に把握していた問題も浮上し、野党は参院予算委員会などで追及する構え。国会は10日ぶりに正常化したとたんに紛糾が必至だ。

 自民党の関口昌一、民進党の那谷屋正義両参院国対委員長は、首相が出席する予算委集中審議を19日に開くことで合意。与党はその後に佐川氏の証人喚問に応じる見通しだが、時期は未定だ。野党は「喚問が必要だと(国民に)思ってもらえるよう、最大の努力をする」(那谷屋氏)と意欲を隠さない。民進などの野党は16日の参院本会議や予算委への出席を決定。衆院でも立憲、希望など野党6党が、一部の委員会を除いて日程協議に応じる方針だ。

 一方、麻生太郎財務相は15日の参院財政金融委員会で「他の(部)局で同様の事案はないと思うが、再確認する」と、改ざんが発覚した理財局以外の全省内も調査する方針を示した。

 追及材料が次々に加わる中、野党は国会論戦で政権を追及するのが得策とみて「欠席戦術」から方針を転換。立憲の逢坂誠二政調会長代理は「(官房長官の15日の説明は)完全な詭弁(きべん)で、国会への冒とくだ」と反発した。共産党の志位和夫委員長は、首相の妻昭恵氏の証人喚問も「絶対不可欠だ」と要求する考えを示した。

 この日も野党は政府へのヒアリングを開いた。首相の友人が理事長を務める学校法人「加計学園」の獣医学部新設を巡り、内閣府が愛媛県今治市に公文書を書き換えさせたとする週刊誌報道を挙げ、希望の今井雅人氏は「本当なら大変だ」と指摘。内閣府は「市の責任で作った文書で、指示していない」と否定した。【樋口淳也、真野敏幸】