アメリカのトランプ政権は、日本時間の23日午後、鉄鋼製品などへの異例の輸入制限措置を発動する予定で、最大の標的の中国だけでなく、日本を含む多くの国が対象となっています。アメリカのトランプ政権は、中国による過剰生産によって鉄鋼やアルミニウムが安く輸入されていることが、安全保障上の脅威になっているとして、異例の輸入制限措置を現地時間23日午前0時すぎ(日本時間の午後1時すぎ)に発動する予定です。これによって、鉄鋼には25%、アルミニウムには10%の高い関税を課すことになります。

これについて、ライトハイザー通商代表は22日、議会上院の委員会で証言し、NAFTA=北米自由貿易協定の再交渉を行っているカナダとメキシコのほか、EU=ヨーロッパ連合やオーストラリア、それに、韓国など7つの国と地域が、当面、除外されるという見通しを示しました。ただ、日本については、除外のリストに載っていないと明言する一方、日米両国の間でFTA=自由貿易協定を締結することに意欲を示しました。

最大の標的の中国だけでなく、日本を含む多くの国が対象となっていて、各国は除外を働きかけていく方針ですが、明確な基準が示されておらず、トランプ政権の一方的な姿勢が鮮明になっています。一方、トランプ政権は、アメリカ国内で調達が難しい製品については、自国の企業の求めに応じて除外する方針で、日本企業としてはひとまず製品ごとに除外を働きかけていくことにしています。

国や製品ごとに対象から外すこと検討

トランプ政権は今回の輸入制限措置について、国ごと、あるいは製品ごとに対象から外すことを検討しています。まず、国単位では、NAFTA=北米自由貿易協定の再交渉を行っているメキシコカナダのほか、EU=ヨーロッパ連合やオーストラリアアルゼンチンブラジル、それに、韓国が、当面、除外されるという見通しを示しています。これについて、ライトハイザー通商代表は、22日、議会上院の委員会で、「トランプ大統領はいくつかの国々を除外すべきだと考えており、関税の適用を一時停止することを決めた」と述べました。

ただ、日本については、除外のリストに載っていないと明言する一方、両国の間でFTA=自由貿易協定を締結することに意欲を示しました。一方、製品単位では、アメリカ国内で調達が難しいものについては、自国の企業の求めに応じて、除外する方針で、日本製品も対象から外れる可能性があります。

除外申請の受け付けは19日から始まっていて、原則として、90日以内に商務省が、対象から外すかどうか判断するとしていて、日本としてはひとまずこの措置によって除外を働きかけていくことにしています。

米鉄鋼メーカーは輸入制限に期待

アメリカの鉄鋼メーカーの間では、国内の生産が増えると期待が高まっています。アメリカ中西部のインディアナ州は、国内の鉄鋼生産量のおよそ4分の1を生産する鉄鋼業が盛んな地域です。この地域には、かつて鉄鋼メーカーが5社ありましたが、中国などから安い鉄鋼製品が輸入されたことで国内産の需要が低迷し、今では2社に減っています。

全米鉄鋼労働組合のインディアナ州の支部で幹部を務めるマイケル・ヤングさんは「中国は政府の支援を受けて鉄をアメリカに安く輸出し、われわれの多くが失業した。中国はあまりにも長く貿易のルールから外れてきたため、もっと強い対抗措置を講じなければならない。公平に競争するためにも国内の鉄鋼産業を守ることが必要だ」と述べ、輸入制限措置が発動されることを歓迎しました。

そのうえで、ヤングさんはトランプ大統領について、「これまでの大統領はなにもしてくれなかったので、通商政策に関してはよい仕事をしている」として評価しました。さらに、ヤングさんは、今回の輸入制限措置に日本も含まれていることについて、「日本も1990年代初めから2000年代にかけて、安い鉄を大量に輸出した最悪の国の一つだ。同じことを繰り返さないよう、日本も対象になることを望んでいる」と述べました。

日系自動車メーカーへの影響は

異例の輸入制限措置によって、アメリカで現地生産する日本の自動車メーカーも影響を受けることになります。このうち、トヨタ自動車は、現地での生産に使用している鉄鋼とアルミニウムは、90%以上をアメリカ国内で調達し、日本からの輸入は一部に限られているとしています。ただ、高い関税が課されれば、さまざまな部品のコストが上がるため、中長期的に車の価格が上昇し、消費者の負担が増えかねないとして、発動しないよう求めてきました。

また、ホンダと日産自動車も、鉄鋼やアルミニウムのほとんどを現地で調達していますが、ホンダは過去に輸入制限が行われた際、輸入品だけでなくアメリカ製品の価格も値上がりしたことから、調達コストの上昇を懸念しています。また、中西部インディアナ州で現地生産を拡大させているSUBARUは、原則としてすべてアメリカ産の鉄鋼とアルミニウムを使用しているとしていますが、取引先の部品メーカーの中には、原料の一部を日本から輸入している可能性もあると話しています。

中国「中国を非難することこそ不公平」

今回の輸入制限措置は、鉄鋼製品を過剰生産する中国に対抗するためのものですが、アメリカにとって中国からの輸入量は比較的少ないことから、中国政府はこれまで直接的な批判を抑えてきました。

大手シンクタンク、大和総研のまとめによりますと、アメリカの中国からの鉄鋼製品の輸入額は、2008年におよそ60億ドルに達しましたが、去年はおよそ10億ドルと、ピーク時の6分の1まで減っています。背景には、アメリカ政府による中国を対象にしたたび重なる関税の引き上げで、中国側が輸出先を東南アジアなどに切り替えてきた経緯があり、今回の輸入制限措置が発動されても、中国への影響は小さいという見方があります。

しかし、トランプ政権が、鉄鋼製品への関税に加え、通商法301条に基づき、中国からの幅広い輸入品に関税を課す制裁措置の発動を決めたことで、中国政府は、報復措置も辞さない構えを強めています。22日の記者会見で、中国外務省の華春瑩報道官は「アメリカは公平とか対等という言葉を使っているが、貿易不均衡の問題で中国を非難することこそ不公平だ」と述べ、アメリカの批判は当たらないという立場を強調しました。

EU 除外決定に向け米と協議

EU=ヨーロッパ連合を含む7つの国と地域が今回の措置の対象から当面、除外される見通しが示されたことから、EUは最終的な除外の決定に向けて、アメリカと協議を進めることにしています。その一方で、EUが輸入制限の対象から除外されなければ、アメリカからの輸入品に報復関税を課すとして、対象となる品目リストの素案を公表しています。

リストには、鉄鋼やアルミニウム製品のほか、トウモロコシやウイスキー、さらに、バイクや衣料品など幅広い品目が盛り込まれ、課税対象の総額は64億ユーロ、日本円にして8300億円余りに上ります。このうち、およそ3700億円分についてはWTO=世界貿易機関の判断を待たずに25%の関税をかけることができるとしていて、アメリカに対抗する姿勢を示しながら対話も模索することにしています。

独自動車業界 報復の応酬を懸念

トランプ大統領は、今回の輸入制限措置にEUが報復措置をとるならば、ドイツなどから輸入される自動車にも関税をかけるとけん制しています。このため、ドイツの自動車業界では、今回の輸入制限措置をきっかけに双方の間で報復措置の応酬に発展し、自動車の輸出やアメリカでの現地生産に影響がおよびかねないという見方が広がっています。

大手自動車メーカーBMWのクルーガー会長は、21日、定例の記者会見で、「われわれのビジネスモデルは、自由貿易に基づいている。経験や事実から言えることは、双方が自由貿易から恩恵を受けているということだ」と述べ、輸入制限措置に懸念を示しました。

また、ドイツの研究機関「自動車マネージメントセンター」のブラッツェル所長は「ドイツの自動車産業は輸出で成り立っており、高度にネットワーク化されているため、開かれた市場が必要だ」と述べ、世界的に報復措置の応酬が起きた場合、経済に壊滅的な影響が及ぶとしています。そのうえで、ブラッツェル所長は「現在は、ドイツの自動車産業が狙われているが、次は日本の自動車産業かもしれないし、別の産業かもしれない」と述べ、日本の自動車産業も標的になりかねないという考えを示しました。