• 総務省調査、3割超値下げでロンドン並み、実態反映してないと業界
  • 「菅氏は高めの球投げ落としどころ探る狙いか」と立花証の鎌田氏
Photographer: Kiyoshi Ota

国内携帯大手3社は電話料金をまだ4割程度下げる余地があるとの菅義偉官房長官の発言が波紋を広げている。携帯各社や市場が発言の真意を測りかねる中、総務省は23日、情報通信審議会を開き、携帯料金も含めた業界の競争政策の在り方について議論を開始した。

菅氏は21日、札幌市の講演で事業者間の競争が働いていないと指摘。これを受けNTTドコモKDDIソフトバンクグループの株価は一時急落した。「4割」という数字はどこからきたのか、果たしてその影響はいかなるのものか。そして実際に各社は値下げに動くのか。Q&A形式でそれらの可能性を探る。

4割値下げの影響は?

ドコモ5G事業推進室の太口努室長は22日、菅氏の発言を深刻に受け止めていると語り、値下げがあれば事業へのインパクトは大きいと記者団に語った。市場全体の拡大が難しい中、値下げは収益悪化に直結する。電気通信事業者協会によると、国内の携帯電話契約数は1億7000万。日本の総人口1億2600万を超えており、携帯電話事業は飽和状態にある。

「4割」の根拠は不明だが、総務省の調査によると、東京、ニューヨーク、ロンドン、パリ、デュッセルドルフ、ソウルの6都市中、5GBの利用料金(月額)は東京が4位で最も安かったロンドンに近づけるには3割超の値下げが必要になる。ただ、日本では端末と通信料金のセット販売が普及しており、事業者からは実態はこれより安いという声もあがる。

値下げの実現性は?

政府による携帯料金値下げの働きかけはこれが初めてではない。安倍晋三首相は2015年9月の経済財政諮問会議で「携帯料金等の家計負担の軽減は大きな課題」と発言。総務省は翌10月に有識者会合を開き、より低価格なプランの提供などを推奨する報告書を12月にとりまとめた。各社はその後、値下げに動いた。

しかし、実際に値下げされたにもかかわらず、その後の家計の通信料負担は増加している。総務省の情報通信白書によると、15年の移動電話通信料は9万1306円、16年は9万6306円、17年は10万250円を記録し増加傾向を強めている。

立花証券の鎌田重俊企業調査部長は22日の電話取材で「4割」と明言した菅氏の真意について、「高い球を先に投げて、落としどころを探すつもりではないか」と分析。物価が上昇基調にある中で、携帯料金のみ4割も下げられるとは「信じがたい」と指摘する。

一方で、携帯料金の値下げは政府と日本銀行が目指す2%の物価上昇というマクロ経済政策の妨げにもなり得る。大和証券の北岡智哉チーフストラテジストは22日のリポートで、携帯通信料が4割下がった場合、消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)を1%前後押し下げると試算。間接効果も含めると2%前後押し下げる可能性もあると指摘した。

政府権限の範囲は?

政府が直接、民間企業である携帯各社に値下げを指示することはできない。ただ、契約内容の改善を要求したり、競合他社の事業参入を認可したりすることにより、条件を調整して業者間でより激しい競争を促すことはできる。総務省は4月に楽天の携帯電話事業への参入を認めている。

楽天は格安スマートフォンの料金プランを維持したまま第4の携帯事業者として19年からサービスを開始する予定だ。公正取引委員会は6月、「2年縛り」や「4年縛り」と呼ばれる料金プランやSIMロックの設定、通信とのセットで端末代金を値引きする販売方法は独占禁止法上問題となる恐れがあるとする報告書を公表した。

立花証券の鎌田氏は「料金だけではなく、参入障壁を壊して、競争環境を醸成することで料金も自然と下がることを政府は期待している」と語る。ただ、今後は5G事業の開始に向けた設備投資への負担増加が予想される中、投資に影響を与えるほどの値下げは政府も考えていないのではないかとの見方も示した。

端末メーカーへの影響は?

携帯会社が通信料の値下げに動けば、端末メーカーにも影響が及ぶ可能性もある。日本では一定期間の継続利用を条件に端末代金を割り引くセット販売が採用されてきたが、通信料を下げると携帯会社では採算が悪化し、値引きによる端末の販売促進を図れなくなる可能性がある。

公取委は7月、国内携帯3社と結ぶ「iPhone(アイフォーン)」端末購入補助に関する契約について米アップルが改定すると発表した。公取委は携帯各社に端末購入の補助金提供を義務付ける契約が、通信料の引き下げを制限している可能性があるとアップルに指摘をしていた。

ジェフリーズ証券のアナリスト、アツール・ゴヤール氏は、影響を受けるのはアップルだけではないと指摘。ソニーやシャープなどもその対象だと話した。

野田聖子総務相は23日午後、情通審に将来を見据えた電気通信事業の競争ルールの在り方を議論し、19年半ばに中間報告を、同年12月をめどに最終答申をまとめるよう諮問した。情通審の内山田竹志会長(トヨタ自動車会長)は会見で「方向性や結論ありきでなく利便性など、幅広く検討していきたい」と述べた。