首相は共同記者発表で共同経済活動に関し「(北方領土)4島の未来像を描く作業の道筋がはっきりと見えてきた」と成果を強調。作業の調整のため民間調査団を10月初旬に派遣すると発表した。首相は日露平和条約が締結されていないことについて「異常な戦後がそのままになっている。私とプーチン大統領の間で終わらせる」と強調した。
プーチン氏は「長年議論が続いている領土問題を一朝一夕で解決できないことはわかっている」と指摘したうえで「両国国民に受け入れ可能な解決方法を探すという意味で共同経済活動に着手した」と語った。
5項目は、海産物の養殖▽風力発電▽ゴミ減容化▽温室野菜栽培▽観光--で昨年9月のウラジオストクで両首脳が合意。工程表では、養殖の魚種や野菜栽培の場所などを決める日程のめどや手順などが示された。
ただ、共同経済活動を始めるには両国の主権をどう整理するかが課題となり、双方の法的立場を害さない「特別な制度」を導入することが前提となる。これまでの協議ではロシア側が制度導入に難色を示しており、今回の会談では議題とならなかった。
一方、会談で首相はロシア軍の極東での軍事演習を「注視している」と伝えた。一方、ロシアは日本の陸上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の導入に反発しており、安保面での対立が領土交渉に影響を及ぼす可能性がある。
ロシア側は、共同経済活動だけでなく、日本企業がロシア国内で大型事業に参入するよう促してきた。日本が医療分野の協力などを重視していることに「これでは十分ではない」(ロシア外交筋)と不満を漏らしている。ただ共同経済活動はもともとロシアが提案した経緯があり、交渉を破綻させる意図はないとみられる。ロシアは北方領土を管轄する極東サハリン州と北海道間を査証(ビザ)なしで移動できる枠組みを作るべきだとも唱えている。揺さぶりをかけながら、自国にプラスとなる材料を引き出す構えだ。
会談では、北朝鮮の完全な非核化に向け緊密に連携する方針で一致。元島民の墓参の手続き緩和についてロシアが検討する考えを示した。日本は10月からロシア人観光客を対象に査証を緩和することを表明。両国の経済交流を促進するため租税条約発効のための公文を交換した。来年6月に大阪で開催される主要20カ国・地域(G20)首脳会議でプーチン氏が来日した際、首脳会談を行うことも確認した。