アメリカ、カナダ、メキシコの3か国によるNAFTA=北米自由貿易協定の再交渉が合意に達しました。自動車の貿易を関税ゼロで行う条件がこれまでよりも厳しく見直され、アメリカへの輸出拠点としてメキシコやカナダに工場をもつ日本の自動車メーカーも対応を迫られる見通しです。

NAFTAの再交渉は、トランプ政権が自動車関連の工場をアメリカに呼び戻すため自動車分野の関税をゼロにする条件をアメリカに有利な内容に変えるよう求めたため難航していました。しかし、ことし8月にメキシコとの間で協議がまとまったのに続いて、カナダとも30日合意に達し、来月末までに署名することにしています。

日本の自動車メーカーは、3か国の中では自動車の関税がゼロになることを利用して、メキシコやカナダにアメリカへの輸出拠点となる工場を増やしてきました。しかし今回の見直しで、日本から持ち込む輸入部品を減らし現地でつくられた部品をより多く使うことが必要になるほか、メキシコの工場で従業員の賃金を上げるかアメリカの工場での作業を増やさなければならず、日本の自動車業界も対応を迫られる見通しです。さらに、メキシコやカナダからアメリカに関税がかからずに輸出できる自動車の台数に上限も設けることになりました。

トランプ政権にとってはカナダ、メキシコから譲歩を引き出して成果につなげた形で、今後、日本との間で行われることになった日米物品貿易協定の交渉でも、日本車の輸出台数の上限などを求め、厳しい姿勢で臨んでくる可能性があります。

トランプ大統領「歴史的な取り引きだ!」

NAFTA=北米自由貿易協定の再交渉が合意に達したことについて、アメリカのトランプ大統領は、ツイッターに「3か国すべてにとって、すばらしい協定だ。NAFTAの欠陥と誤りを解決し、貿易障壁を取り除いた。歴史的な取り引きだ!」と投稿し、アメリカの農家や製造業にとって輸出の拡大につながるとして、合意の成果をアピールしました。

日本メーカーへの影響は

NAFTAは、アメリカ、メキシコ、カナダの3か国が相互に関税を撤廃している協定です。

トランプ大統領が協定の名称を変えたいという意向を示していたことから今回の見直しで、名称はNAFTA=北米自由貿易協定から「アメリカ・メキシコ・カナダ協定」に変更されます。

日本の自動車メーカーや自動車部品メーカーは、これまで関税がかからないメキシコやカナダに続々と進出してアメリカへの輸出拠点を作り上げてきました。しかし今回の協定の見直しで関税がゼロになる条件が厳しくなります。

その1つが「原産地規則」というルール。これまでは自動車に使われる部品の62.5%が3か国で作られていれば関税はゼロになりましたが、見直しで75%に引き上げられます。つまり日本やアジアで作った部品などが今までのように使えなくなるのです。

メキシコ政府によりますと見直しによっていまメキシコで製造されている自動車のおよそ32%は新たな水準を満たさずに関税がかかってしまうということで、日本のメーカーは現地で調達する部品を増やさなければなりません。

また「賃金」の基準が新たに設定されます。これは、人件費の安いメキシコからアメリカの工場に生産の一部を移させる狙いがあります。従業員の時給が16ドル、およそ1800円以上の工場で一定以上の生産を行わないと関税がかかるようになります。日本のメーカーは、メキシコの工場で従業員の賃金をあげるか、アメリカの工場での作業を増やさなければならなくなり、生産コストの上昇をもたらす可能性があります。

さらに、カナダやメキシコからアメリカへ、関税がかからずに輸出できる乗用車の台数に上限を設けることになりました。上限は年間260万台で、それを超えた場合には、高い関税を課すとしています。

これによってアメリカ向けの自動車の生産台数が、事実上、制限されることになります。こうした一連の見直しは、今後、自動車メーカーがメキシコやカナダに進出する際のブレーキになる可能性があります。また、今後、日本との間で行われる日米物品貿易協定の交渉でも、日本がアメリカへ低い関税で輸出できる自動車の台数に上限を求めてくる可能性があり、厳しい協議になることが予想されます。

カナダ・メキシコは重要拠点

日本の自動車メーカーにとって、カナダとメキシコはアメリカ市場に向けた重要な生産拠点になっています。

カナダにはトヨタ自動車とホンダが進出しています。このうち、トヨタのカナダ工場は去年1年間で、57万台を生産し、このうちおよそ80%にあたる45万台をアメリカに輸出しています。この工場では「カローラ」やSUVの「RAV4」、それに高級ブランドの「レクサスRX」の3車種を生産しています。

このうち、アメリカ市場でトヨタの主力車種となっている「RAV4」は、アメリカでは生産しておらず、カナダと日本から輸出しています。また、ホンダはカナダで43万台を生産していて、このうちおよそ75%にあたる32万台をアメリカに輸出しています。

一方、メキシコには日産自動車、ホンダ、マツダ、トヨタが進出しています。日産はメキシコの工場で去年83万台を生産し、このうちおよそ40%をアメリカに輸出しています。

ホンダは21万台余りを生産し、およそ60%にあたる13万台をアメリカに輸出しているほか、マツダも18万台余りを生産し、およそ40%にあたる7万台を輸出しています。

トヨタは、マツダに生産委託した分も含めおよそ15万台を生産し、このうちアメリカへの輸出は94%にあたる14万台となっています。さらに来年にはメキシコで新工場を完成させて、生産を増やす予定です。

NAFTAとは

NAFTAは1994年に発効したアメリカとメキシコ、それにカナダの3か国の自由貿易協定です。

トランプ大統領は、おととしの大統領選挙の期間中からNAFTAによってアメリカの雇用が奪われてきたとして協定を見直す再交渉を求めてきました。再交渉は去年8月から始まりましたが、焦点の一つが自動車でした。

メキシコやカナダで生産してアメリカに輸出される自動車の関税は原則ゼロですが、トランプ政権はアメリカに自動車関連の工場を呼び戻すために、アメリカ製の部品をより多く使わないと、関税がゼロにならないよう条件の見直しを求めたのです。

しかし、アメリカに有利になる見直しに、メキシコやカナダは当然、強く反発して目標としていた去年年末までの合意はできませんでした。

その後、トランプ政権は、鉄鋼などに高い関税を上乗せする異例の輸入制限措置をカナダとメキシコに対しても発動し、自動車についても高い関税を上乗せする構えを示し両国に譲歩を迫りました。

さらにアメリカは、こう着した交渉を前に進めるためカナダを外してまずメキシコと個別に交渉を進め、8月には、2国間で合意にこぎ着けました。

そのうえでカナダとの協議にのぞみ、歩み寄りを迫ってきましたが、カナダにとっては乳製品など、ほかにも譲歩できない分野があってこの1か月間、隔たりは埋まりませんでした。

トランプ大統領は、先月26日の会見で「カナダとの協議にはとても不満だ。カナダから輸入される自動車に関税を上乗せすることを考えている」と述べ、輸入車への関税上乗せをちらつかせながら圧力をかけていました。