兵庫県明石市の名産「明石ダコ」が不漁に陥っている。地元漁協によると、漁の最盛期となる7、8月の漁獲量は「例年の5分の1程度」。危機感を抱いた沿岸の漁協が独自の育成策に乗り出した。
明石ダコは、明石市近辺で捕れるマダコの総称。明石海峡の速い潮流に耐えた太く短い足で「陸でも立って歩く」とも評され、弾力ある歯ごたえとうまみが特長。梅雨時が成長期で7月には1キロを超える大物も増える。
市のマダコの漁獲量は全国一の年間約1千トンを誇ってきた。大半は底引き網漁で、タコつぼ漁や一本釣りも。だが、沿岸9漁協の底引き網漁師でつくる東播磨底曳網(そこびきあみ)漁業協議会によると、今年は漁獲量が低迷。好漁場が近い東二見漁協でも、昨年に約206トンあった7、8月の漁獲量は今年約48トンに過ぎない。
明石ダコは55年前の1963(昭和38)年、絶滅の瀬戸際に追い込まれたことがある。日本海側が大雪に悩まされた「三八豪雪」の年。寒波で海水温が下がり、多くが死滅した。兵庫県などが熊本県の天草地方や長崎県の五島列島から抱卵した親ダコを買い取って放流。危機をしのいだものの、明石市史は「一説では、明石のタコの味は、このころを境にして変わったと言われている」と記す。
今回の不漁の原因も昨冬の海水温低下とみられ、「語り継がれていた55年前の放流が頭をよぎった」と協議会の竹本義美会長(60)。兵庫県水産技術センター(同市)と相談し、子孫を増やす策を講じることにした。センターの長浜達章研究員(60)は「同じマダコとはいえ、産地が違えば環境も異なる。生物学的にも、明石の海で育ったタコが増える方がよい」と話す。
抱卵ダコ放流、期間禁漁も
抱卵したタコは1匹で10万個産卵するとされる。協議会は、捕れたばかりの明石ダコから抱卵ダコを市場で選別してもらい、協議会で買い取った後に再び海に放流することに決定。ノリ養殖の網を張る明石沖などの六つの海域にタコつぼを沈め、9月下旬から10月にかけて計約440キロを放流した。抱卵ダコの放流はここ数十年なかったといい、百数十万円かかった費用は協議会の会費を充てた。
また、タコつぼ漁や一本釣り漁師にも協力してもらい、放流した海域のタコ漁を一定期間禁漁にした。
ただ、禁漁は「自主ルール」で強制力はない。協議会の気がかりは、プレジャーボートなどでタコ釣りを楽しむ一般客の動向だ。協議会の竹本会長は「漁師が自腹で明石ダコを育てている。釣り人の方々も、趣旨を理解していただければ」と協力を求めている。(高松浩志)