企業などに勤める人は国籍に関係なく、健康保険組合や協会けんぽが運営する被用者保険に加入し、被保険者として保険料を支払う。被保険者の配偶者、両親や祖父母、子ども、孫らは被保険者の仕送りで生計を立てているなどの条件を満たせば、海外在住で別居でも保険が適用される。
被保険者が外国人でも日本人でも、海外に住む扶養家族が来日して治療を受けた場合の自己負担は原則3割で済む。海外で治療を受けた時は、一度全額を自分で支払い、保険適用分について払い戻しが受けられる「海外療養費制度」が使える。
厚労省は昨年度約42兆円の医療費のうち、外国人の扶養家族にいくらかかったかは把握していない。だが、自民党内などには以前から制度見直しを求める声があり、新在留資格「特定技能」を来年4月から導入するための出入国管理法改正案をきっかけに、さらに声は強まった。日本で働く外国人の増加に伴って、海外に住む扶養家族の医療費負担も増え、医療保険財政を圧迫しかねないとの懸念があるからだ。
こうした状況を踏まえ、同省は保険適用となる扶養家族を絞り込む必要があると判断。国籍を問わず、「日本居住」を要件とする方向で検討している。
焦点は、保険適用を認める「例外」をどう定めるかだ。子どもの海外留学や家族そろっての海外駐在時は認める方向。駐在後に家族だけが海外に残った場合にどこまで認めるかなどは、今後の議論となる。同省幹部は「国内利用を前提とした本来の制度の趣旨に立ち返る」と説明する。同省は海外事例も参考に、広く加入者が保険料の支払いに納得する仕組みとなるよう、詳細を詰める。
ただ、家族帯同が認められない技能実習生や特定技能1号の外国人にとって、子どもの海外留学などはそもそも起こり得ないケース。同じ保険料を支払っていても受けられるサービスに不公平が生じる。
中央大の新田秀樹教授(社会保障法)は、「公的医療保険は加入者の国籍を問わず、平等でなければならない。運用上で実質的に日本人と外国人に差が出るのであれば問題だ。不合理な差別にならないよう丁寧に議論する必要がある」と指摘する。(西村圭史)