日産自動車のけん引役ともいうべきカルロス・ゴーン氏が逮捕された。その衝撃は一瞬にして世界中を駆け巡った。昨日、速報でゴーン逮捕の一報に接した時、個人的には「何かの間違いではないか」と思った。しかし、時間の経過とともに、自らの報酬を過少申告した有価証券報告書の虚偽記載の罪に問われていることや、ゴーン氏個人が会社のカネを不正利用していた疑惑があることが明らかになってきた。昨夜10時過ぎには日産の西川(さいかわ)広人CEOが記者会見した。西川氏はゴーン氏の盟友ともいうべき側近の一人である。一夜明けて今朝、各紙のニュースを読みながら、個人的にはこの事件に対する疑問が次から次に湧き上がってきた。ゴーン氏逮捕は金融商品取引法違反という単純な犯罪なのだろうか。ひょっとすると裏になんらかの力が働いている疑獄事件ではないのか。真実が分からないだけに妄想が妄想を呼ぶ。検察が日産との間で司法取引を行ったことも気になる。折から自動車業界は変革の嵐の中にある。しばらく様子を見ないとこの事件の本筋は見えてこないような気がした。

ゴーン氏と側近で日産の代表取締役グレッグ・ケリー氏に掛けられた嫌疑は金商法違反(有価証券報告書の虚偽記載)である。ゴーン氏の報酬を5年間で50億円過少申告していた。内部通報によって虚偽記載の可能性を知った日産は、密かに内部調査を開始。この過程で検察に通報し、司法取引を行っている。ゴーン氏の嫌疑解明に向けて日産と検察がタッグを組んで内偵を始める。となれば政府も当然こうした動きを事前に知っていたはずだ。嫌疑の内容はすでに十分裏が取れているのだろう。安倍首相は11月中旬に第1次世界大戦終結100周年記念式典に出席、マクロン大統領と会談している。この時にゴーン氏の疑惑が話題になったかどうかわからないが、事務レベルで情報が共有された可能性はないとは言えない。ゴーン氏に掛けられた嫌疑は一般庶民から見れば桁違いに大きな過少申告である。とはいえ、過去に金商法が適用された事件は粉飾決算や取締役の背任行為など社会的な影響が大きい事件が大半だった。これに対してゴーン氏の嫌疑は直接的には取締役としての善管注意義務違反という比較的軽微な罪状である。

今回のケースはゴーン氏の過去の実績やこれまでの功績からみて、別件逮捕のような印象を受ける。余罪があるとは言え、それによって日産が大きな損失を被ったということもなさそうだ。それ以上に、50億円という虚偽記載はゴーン氏とケリー氏の2人だけではできない。日産社員の協力なくして有報に虚偽の記載をすることは不可能だ。自動車メーカーのトップの報酬は、世界的にみれば年間20億円から30億円というのが相場である。ゴーン氏の報酬はこの範囲にあるが、トップの報酬に敏感な日本社会に配慮して過少に見せかけていたのだろう。ひょっとすると会社もそれを黙認していたのかもしれない。何を言いたいのかというと、ゴーン氏逮捕の衝撃の大きさに比べて、嫌疑の中身が不釣合いな気がするのだ。この逮捕劇には何か大きな裏があるのではないか、そんな気さえしてくる。自動車業界はいま国際的に熾烈な競争の渦中にある。マクロン大統領はルノーと日産、三菱自動車の合併を要求していた。ゴーン氏はこれに反対していた。一部にはゴーン氏排除に向けた日産のクーデター説もある。カネの亡者であるゴーン氏の単純な犯罪か、ゴーン氏排除が目的か、なんとなくきな臭い。