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特別背任容疑の構図

 日産自動車の会長だったカルロス・ゴーン容疑者(64)が、私的な投資で生じた損失を日産に付け替えて損害を与えたなどとして、東京地検特捜部は21日、ゴーン前会長を会社法違反(特別背任)の疑いで再逮捕し、発表した。関係者によると、付け替えには側近の秘書室幹部が関与していたことが判明。特捜部は前会長がごく一部の側近に指示して、会社を「私物化」していたとみている。

 ゴーン前会長は、計約91億円の役員報酬を有価証券報告書に記載しなかったとする金融商品取引法違反の疑いで2回逮捕された。東京地裁が20日、再逮捕容疑について検察側の勾留延長請求を却下したため、早期保釈の観測も出ていたが、今回の逮捕で身柄の拘束は年を越す可能性が高まった。

 一方、ゴーン前会長の側近の前代表取締役グレッグ・ケリー被告(62)=金融商品取引法違反の罪で起訴=の弁護人は21日に保釈を請求した。関係者によると、保釈は早くても25日以降になる見通しだという。

 特別背任容疑に関わった秘書室幹部は、ゴーン前会長が起訴された役員報酬の過少記載事件で特捜部と司法取引に合意した人物だ。特捜部は特別背任事件でも、この幹部から前会長の指示を裏付ける供述を得たとみられる。

 特捜部などによると、前会長は自分の資産管理会社と銀行との間で、金融派生商品であるスワップ取引を契約していたが、2008年秋のリーマン・ショックの前後に多額の評価損が発生した。同年10月、契約の権利を資産管理会社から日産に移すことで、約18億5千万円の評価損を負担する義務を日産に負わせた疑いがある。

 前会長はさらに、この契約を再び自らの資産管理会社に戻そうとしたが、銀行側から追加の担保を求められた。この際、サウジアラビアの知人に依頼して別の銀行による信用保証を取り付けてもらった。保証があることで、担保を差し入れるのと同様の効果が生まれ、前会長側に契約の権利が戻ったとみられる。前会長は、日産の子会社からこの知人が経営する会社に、09年6月~12年3月に4回、計1470万ドル(現在のレートで約16億3千万円)を入金させ、日産に損害を与えた疑いがある。

 特捜部は、この損失の日産への付け替えと、子会社を介した知人への入金について、二つの特別背任容疑が成立すると判断した。

 関係者によると、日産への負担義務の付け替えをめぐって、当初はゴーン前会長が銀行側と直接交渉に当たっていたが、途中から交渉役として秘書室幹部を指名。銀行側の了承を取り付けたという。

 当時、証券取引等監視委員会もこの取引を把握。特別背任にあたる可能性があると銀行に指摘していた。この問題を朝日新聞が11月27日付朝刊で報じた際、ゴーン前会長は「付け替えは実行していない。日産に損害は与えていない」と話したという。

 スワップ取引は、為替などの金利の変動リスクを回避するために広まった金融派生商品。同じ種類の通貨で、固定金利と変動金利などの異なる金利を投資家と銀行などの当事者間で交換する。見通しを誤れば巨額の損失を抱えるリスクもある。

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 〈特別背任〉 会社の取締役らが、自己や第三者の利益を図ったり、会社に損害を加えたりする目的で任務に背き、その会社に財産上の損害を加えた場合に適用される、会社法上の規定。法定刑は懲役10年以下または罰金1千万円以下で、刑法の背任(懲役5年以下または罰金50万円以下)より重い。

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