海上自衛隊P1哨戒機が韓国駆逐艦から火器管制レーダーの照射を受けた問題。日韓の防衛当局はシンガポールで14日に2回目の実務者協議を開き、膝詰めの協議は午前9時半から午後8時にまで及んだ。日本側が保全上、「秘」扱いのP1が収集した周波数の提示を打診。その条件として、韓国側に駆逐艦が保有するデータを示すよう要請したが、韓国側は拒否した。双方が周波数のデータを突き合わせれば、照射の有無が判明したが、政府高官は「もはや軌道修正できない韓国側がデータ交換に同意しなかったのは想定内」と、淡々と話した。

「日本が無礼な要求」と非難


 ◇機密提供、相互主義が基本

記者会見する海上自衛隊トップの村川豊海上幕僚長=15日午後、東京都新宿区の防衛省

 海上自衛隊トップの村川豊海上幕僚長は15日の記者会見で、「協議の中で解決策を導く必要があるなら、把握しているデータを開示する可能性はある」と説明。その上で、「その際には韓国側で持っているデータもしっかりと見せていただき、突き合わせて検証していく必要がある。一方的にすべてを開示することはないと考えている」と強調した。防衛省関係者は「外交上の相互主義の観点からも、客観的な秘のデータを双方が提示し、照合すべきだ。日本側だけが提示しても意味がない」と指摘する。

 日本側は昨年12月20日に照射を受けた後、P1が収集した周波数を含め、証拠を固めた上で、翌日発表。海自はP1が受信した電波のデータを、海自横須賀基地(神奈川県)の電子情報支援隊で分析し、防衛省は「動かぬ証拠」として、首相官邸にも報告していた。

火器管制レーダーを照射した韓国駆逐艦=防衛省公開の映像より

 韓国側が否定したことで、防衛省はP1が照射された際に乗員が撮影した映像を公表したが、周波数についてはP1の電子戦の能力が他国に把握される恐れがあり、提示するかどうか慎重に検討してきた。

 P1が所属していた厚木航空基地の固定翼哨戒機は、2017年に全機がP3Cから最新鋭のP1に入れ替わったばかりだ。今後、数十年間、日本周辺海域の警戒監視に就くだけに、「提示すれば、どの程度の距離でP1がレーダー照射を探知でき、感度がどれ位か能力を他国にさらすことになる」(海自関係者)との声もある。

韓国駆逐艦から火器管制レーダー照射を受け、海上自衛隊P1哨戒機のクルーが受信した照射電波の音を機長に報告=防衛省公開の映像より

 ◇軍事情報保護協定も期待できず
 しかし、「曖昧にはできない」との首相官邸の強い意向もあり、岩屋毅防衛相は、2回目の実務者協議前日に「必要に応じて電波情報も含めて、先方には開示をして事実をしっかりと確認をさせていただくこともあり得ると」と提示を辞さないことを改めて、記者団に強調していた。最終的には、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)に基づき、防衛機密の双方のデータを提供し合う選択肢もあるが、防衛省は韓国側が応じる可能性は低いとみている。

海上自衛隊P1哨戒機=海上自衛隊提供

 自衛隊OBは「韓国側が駆逐艦のレーダーのデータ開示を拒否したのは、これまでの主張と整合性が取れなくなるからだろう。海自の説明が正しいことがある意味証明された。長引かせても利点はない。この問題に区切りをつけるべきではないか」と話した。
 (時事通信社編集委員 時事総研 不動尚史)。(2019/01/15-22:14)