調査捕鯨で北海道・釧路港に水揚げされたミンククジラ=平成29年9月
調査捕鯨で北海道・釧路港に水揚げされたミンククジラ=平成29年9月

 政府がクジラ資源の管理を担う国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退を表明してからまもなく1カ月を迎える。この間、脱退の決定打を押した自民党の捕鯨推進派の議員らは関係国を回り、一連の経緯を説明した。訪問先では「よくぞ声を上げてくれた」と歓迎された国もあったといい、今のところ脱退への強い反発はない。政府は7月から日本近海での商業捕鯨再開に向け準備を進めている。

 「思ったほど(反捕鯨国からの)反発は起きていないな」

 昨年12月26日の脱退表明後、自民党の二階俊博自民党幹事長(79)は、周囲にこう分析してみせた。二階氏は、古式捕鯨発祥の地とされる和歌山県が地元で捕鯨推進派の中核的な存在だ。

 国際的な批判をおそれてIWCからの脱退に慎重だった外務省を抑えて政治判断で決着に導いたのも、二階氏らの影響力が大きかった。

 脱退を表明したときには国際社会の強い反発が懸念されていた。しかし、目立った反捕鯨国の反発といえば、脱退当日にオーストラリアとニュージーランドの閣僚がそれぞれ批判した程度だ。米紙ニューヨーク・タイムズ電子版は、日本のIWC脱退通告を「危険で愚かな動きだ」と論評したが、二階氏が指摘した通り、批判が国際社会の中で大きなうねりとなっていない。

背景の一つとして、自民党捕鯨議員連盟(会長・鈴木俊一前五輪相=65=)に所属する議員らの迅速な説得行脚がある。所属議員らは、政府が脱退を決めた直後からカリブ諸国やアフリカなど捕鯨推進国を訪れ、日本の立場や脱退の経緯を説明して回った。

 議連では、日本が30年以上にわたって収集した科学的データをもとに、各国の理解を得る努力を続けている。IWCの加盟国のうち日本を除く捕鯨推進派の国は40カ国に上っており、各国を回った議員の1人は「『日本の立場は分かっている』と賛意を示す国もあった」と明かした。

 脱退に伴い、IWC加盟が条件となる南極海での調査捕鯨はできなくなる。日本は今後、IWC科学委員会にオブザーバー参加し、国際機関との連携は続けながら、7月から領海や日本の排他的経済水域(EEZ)で商業捕鯨を再開する方針だ。

 和歌山県選出で議連の幹事長代理を務める鶴保庸介元沖縄北方担当相(51)は5日のラジオ番組で「国際社会の中で孤立するという意見もあるが、カリブ海やアフリカの国々は賛成している」と説明。その上で「ミンククジラやザトウクジラは資源も十分にあることが分かっている。1000年近く続けてきた文化を主張もせずやめるのはあるべき姿なのか」と訴えた。

とはいえ、7月の捕鯨再開に向け反捕鯨国が反発を強める可能性は残る。IWCは今月18日、ビビッチ議長(スロベニア)が加盟国に脱退を検討しないように促し残留を訴える加盟国宛て書簡を公表した。

 書簡では、IWCは長い歴史の中で加盟国が幅広い意見を表明し、議論する場を提供してきたと指摘。「多様な意見を持つ活発な組織の一員であることは、われわれ全員に利益があることだと考える」として、加盟国にIWCにとどまるよう訴えた。

 しかし、現在のIWCはもはや機能不全に陥っていることは明らかだ。日本側の科学的データに耳を傾けず、クジラ資源の保存と捕鯨産業の秩序ある発展が目的だった設立当初の趣旨を忘れ、クジラの保護に傾倒している。

 日本は引き続き国際社会の理解を得る努力を続けながら、日本の伝統的な捕鯨文化を守り発展させていくことが求められている。

(政治部 大島悠亮)