米朝の首脳会談は合意に至らず終了した。テレビで中継されたトランプ大統領の記者会見を見ながら、この会談は一言でなんと言えばいいのか考えた。決裂でもなければ延期でも延長でもない。会談は突如中断された。だから中断かもしれない。だが、次回会合の予定はない。中断もおかしい。シンガポールでの第1回会談。目的は「朝鮮半島の全面的な非核化」という中身のない形式的な合意を作ること。中身がなくても世間の賛同を得られればよかった。それに比べ今回の会談は非核化のプロセスなど一応中身は存在した。ポーズだけの前回会談に比べたら実質的な中身ははるかに充実していた。だが、国内対策という会談の目的が事前に双方できちっと合意されていなかった。どうやったらお互いに点数を稼げるか、双方が思惑を秘めて語り合った。結果、合意できなかった。双方の目的は最初からすれ違っていた。
双方の思惑が異なっていることを改めて確認した会談だった。トランプ大統領は記者会見で、「北朝鮮は全面的な制裁の解除を要求した」と説明している。これに対して未明に会見した北朝鮮側は「核施設数カ所を閉鎖する見返りに要求したのは経済制裁の全面解除ではなく、一部の解除だと通訳を通じて説明した」と主張する。おそらくその通りだろう。要はトランプ氏の求めるものと、金正恩氏の求めるものが基本的に異なっているということだ。会見場所がなぜベトナムだったのか。トランプ氏は金氏にかつて敵だったベトナムの繁栄から、何かを感じ取って欲しかった。これに対して金氏は国内情勢に配慮した当面の土産が欲しかった。トランプ氏の求めたものは完全な非核化に対する北朝鮮の踏み込んだ姿勢だろう。金氏は目先の利益を求めた。
メディアはトランプ氏が“成果”を一番望んでいたと報道する。首脳会談という最重要イベントに合わせてコーエン元弁護士の議会証言がセットされた。これによって首脳会談は、全米の有権者からみるとはるか後方に霞んでしまった。仮にトランプ氏が文書に署名しても、それは“成果”とは程遠いものでしかない。それを避けるために北朝鮮は一歩も二歩も踏み込む必要があった。だが、その準備はできていなかった。国内的な“成果”を望んでいたのは金氏も同じだ。北朝鮮の事前報道はすごかった。「包括的で画期的な首脳会談」と強調していた。会見終了後は「千載一遇のチャンスを逃した」と米国を攻撃する。だがトランプ氏は、コーエン証言によって首脳会談の目的を一段と高いところに設定せざるを得なくなった。コーエン証言が首脳会談の“落とし所”を一瞬にして変えてしまったのだ。第2回米朝首脳会談は突然変わった政治環境によって合意案がふっ飛んだ。その典型的な実例として、歴史に刻まれるような気がする。