【ソウル=桜井紀雄】ハノイでの米朝首脳再会談の決裂は、トランプ米大統領と金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が非核化措置と制裁解除という本題を詰め切らずに会談に臨んだことが原因とみられる。金氏は制裁解除を引き出せると踏んだ寧辺(ニョンビョン)の核施設廃棄を韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領に最初に提案しており、米朝会談の失敗は文氏の「仲介外交」の限界も露呈させたといえそうだ。
文氏は4日に開催した国家安全保障会議(NSC)で「米朝両首脳が近く会い、妥結が実現することを期待する」と述べ、「われわれの役割も再び重要になった」と仲介役としての再登板に意欲を示した。
金氏が廃棄の意思を示した寧辺核施設を「北の核施設の根幹」だとし「完全に廃棄されれば、非核化は逆戻りできない段階に入る」と高く評価。制裁解除が議論されただけでも「大きな進展」だと主張した。寧辺以外の核施設の査察や廃棄も求めたトランプ氏との温度差を浮き彫りにした。
北朝鮮は、寧辺の「完全廃棄」と交換に求めた制裁解除は国連決議のうち、5件の人民生活に関わる項目だけだとし、全面解除を要求したとする米側に反発した。だが、この5件は石炭など北朝鮮の主力輸出品の禁輸や石油の輸入制限に当たり、「制裁効果の99%を占める」(韓国の専門家)とも指摘される。このため、米側は制裁の骨抜きにつながると判断したのだ。
米紙ニューヨーク・タイムズが交渉参加者らの話として伝えたところでは、北朝鮮が寧辺廃棄への見返り措置として米側に特定制裁の解除を求めたのは会談6日前の実務者協議だった。金氏がトランプ氏との直談判に懸けていた証左だ。
金氏は2月27日の会談初日に寧辺と引き換えに5件の制裁解除を提案。これに対し、トランプ氏は全ての核施設の廃棄を求め、金氏が信頼関係が不十分だと反論し、平行線に終わった。
金氏が昨年9月、文氏との首脳会談で米側の相応の措置を条件に寧辺核施設の永久廃棄を打ち出した際には、条件が整い次第、外貨源となる開城(ケソン)工業団地や金剛山(クムガンサン)観光の再開でも合意。文氏は欧州首脳らに制裁緩和の必要性を説いて回った。
米朝間の接触が限られる中、文氏の反応から金氏が「寧辺は制裁解除のカードになる」と予断を持ったとしても不自然ではない。文氏という金氏寄りの「仲介役」を挟んだことでボタンの掛け違いが生じた可能性がある。
米朝が物別れとなった翌日の1日、文氏は日本統治からの独立を求めた三・一運動から100年を記念した演説で「新朝鮮半島体制」や「平和・経済協力共同体」を掲げ、開城工団や金剛山の再開を米国と協議していくと強調した。