[ワシントン/フランクフルト 7日 ロイター] – 世界全体で、物価上昇が弱く経済成長も低調な状態が「通常運転」の時代に戻ったことがはっきりしてきた。このため米連邦準備理事会(FRB)は1月に利上げ休止の方針を打ち出し、他の多くの主要国でもやむを得ず政策を転換する動きが広がっている。
こうした事態を適切に表現して見せたのは欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁であり、7日の会見で「われわれは脆弱性が継続し、不確実性がまん延する時期にいる」と語った。これこそ、なぜECBが利上げ時期を来年に先送りし、新たな銀行向け低利資金供給の実施を発表したかを端的に表した発言だ。
ECBはまさに、物価上昇率と成長に関するさえないデータに対応した。FRBの利上げ休止、中国による今週の景気刺激策、日銀内で追加緩和を求める声が出てきていることなどと併せて、こうしたECBの決定は、世界経済が1年前の「同時拡大」から劇的に悪化した事情をつぶさに物語る。
実際、足元の世界経済は、どちらかと言えば「同時停滞」の到来を示唆しつつある。
底流に高齢化や生産性の低さといった要素がある上に、英国の欧州連合(EU)離脱といった地政学リスク、また米国の保護主義的政策が世界中にコストを生み始めているという要素が加わり、事態が悪化しているというのが、ドラギ氏をはじめとする中銀関係者の指摘だ。
結果としてECBは今年のユーロ圏の成長率見通しを1.1%と1年前に示した2.4%の半分以下まで引き下げた。米国も大型減税などのプラス効果が消えつつある中で、減速が見込まれる。
FRBのブレイナード理事は、海外の成長減速は当初の想定より持続的に見えると述べ、その裏には今年の成長率目標を切り下げた中国が直面する諸課題や、ドイツ経済の弱さ、日本経済のもたつきなどがあるとの見方を示した。
そしてだれにとっても現状を打開するのは難しくなりそうだ。欧州で今後金利低下観測が生まれることは、ドル高をもたらす公算が大きく、そうなると米国の輸入価格下落を通じて物価全般はさらに軟化し、輸出コスト増大によって成長の勢いも弱まってしまう。
つまり米経済見通しの不確実性は増し、既に大きく減退しているFRBが追加利上げする必要性は一層薄れる。
ECBの政策転換で投資家の世界経済に対する不安感も増幅され、7日には主要株価が軒並み売り込まれた。一方米国と欧州の国債利回りは急低下した。
ドラギ氏は、1月のパウエルFRB議長の発言をなぞる形で、ECBが軌道修正を迫られた主な理由は世界経済の環境と政治リスクだったと説明。欧州の経済成長にとっての試練は、ブレグジット(英のEU離脱)や米通商政策といった「ほとんど対外的な要因」に尽きると述べ、これらの要因がいつまで世界経済やユーロ圏経済、人々の先行きへの自信に悪影響を及ぼし続けるのかが分からないと付け加えた。
米通商政策に関する最近の調査によると、トランプ政権が導入した関税などが米国の消費者や企業の懐からこれまでに毎月およそ45億ドルを直接的に奪っているとの分析結果が示された。
ただ、より慢性的な影響は、世界経済の回復に対する人々の自信が崩れることだろう。2017年から18年の大半の期間まではこうした自信が満ち溢れ、FRBは「諸々の追い風」のおかげで利上げを続けられると楽観的な姿勢を表明していた。
それが今では企業投資は期待外れ、消費は予想より低調な流れに転じており、昨年終盤には市場の乱高下によって米国の家計資産は3兆8000億ドルも目減りしてしまった。
一方ドラギ氏は欧州経済に関して、米国と同じように雇用拡大の継続や幅広い賃金上昇など経済がしっかりした状態を保っている証拠はあると主張した。それでも非常に限定的な範囲を超える経済成長を実現する力強さは見られず、主要中銀のハト派転換はせいぜい世界経済がこれ以上深刻な事態を迎えるのを食い止める効果しか期待されていない。
ドラギ氏も、7日のECBの決定はなお下振れ方向にある欧州経済のリスクバランスの修正にはまったく役に立たず、さらなる悪化に備えるにすぎないと認めている。
(Howard Schneider、Balazs Koranyi記者)