日産自動車のカルロス・ゴーン前会長の妻キャロルさんを乗せたとみられる車が東京地裁を後にした=2019年4月11日午後4時43分、東京・霞が関、飯塚晋一撮影
日産自動車前会長カルロス・ゴーン容疑者の妻キャロルさんに対する証人尋問はどのようにして実現したのか。
刑事訴訟法は226条で「公判前の証人尋問」を定める。「犯罪の捜査に欠くことができない知識を有する者」が出頭や供述を拒んだ場合、公判が始まる前に限って、検察官が裁判所に証人尋問を請求できるという仕組みだ。
地裁が請求を認めた場合、尋問は任意の事情聴取ではなく、強制的な手続きになる。うそをつけば偽証罪に問われ、自分や近親者が刑事訴追や有罪判決を受ける恐れがあれば証言を拒めるといった原則は、公判の証人尋問と同じだ。
作成される調書は、裁判官の目の前で話した内容が記録される。このため、検察が取り調べで作る供述調書より信用性が高いものとして扱われる。
逆に弁護側は難しい立場に立たされることが多い。
容疑者やその弁護人の同席は、公判の場合と違って、裁判官が「捜査に支障がある」と判断すれば認められない。今回のように弁護人が同席できても、検察側の証拠が開示されていない捜査段階のため、事件の全体像が分からず、有効な反対尋問は難しい。
刑事弁護に詳しい菅野(すげの)亮弁護士は「(公判の証人尋問と)証言の重みは変わらないのに、弁護側は防御の準備が整っていない。実際は捜査の武器になっており、弁護側にはきつい制度だ」と指摘した。
ゴーン前会長の勾留期限は14日。検察側はさらに10日間の勾留延長を請求するとみられる。弁護団は、勾留延長の阻止や起訴後の早期保釈をにらんで、キャロルさんの証人尋問を「できる限り早く終わらせたい」と地裁に要望したという。
一方、検察幹部の一人はキャロルさんが出国後にすぐ帰ってきたことについて、「逃げたみたいで、口裏合わせして証拠隠滅するという印象を裁判所に与えるのを避けたのだろう」と語った。今後は、キャロルさんの証言内容が前会長の主張や証拠と矛盾していないか、慎重に調べる。