[サンフランシスコ 10日 ロイター BREAKINGVIEWS] – ベーシックインカム(最低限所得補償)制度というものがどう機能し、導入すると何が起きるのか。シリコンバレーが、この制度の基礎的事実を明らかにするのに一役買いそうだ。 

スタートアップ企業を育成するYコンビネーターが、人々に毎月補助金を支給するこの制度の利点と欠点を調べる研究に参入した。これまでに行われた政府支援の研究よりも、この民間の取り組みの方が大規模で実施期間も長く、制限も少ない。 

ベーシックインカムがこれほど話題になる背景には、格差の拡大や、テクノロジーの発展で労働者が失職することへの懸念がある。 

米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)や、米電気自動車大手テスラのイーロン・マスクCEOが、ともにベーシックインカム制について前向きな発言をしている。米大統領選の民主党候補に名乗りを上げる元ハイテク企業幹部アンドリュー・ヤン氏は、公約の柱に同制度を掲げている。 

だが、この制度が現実にどう機能するかについての実証的な知見はほとんど得られていない。 

米カリフォルニア州ストックトンのマイケル・タブス市長が2月に実証実験を始めた。しかし住民100人に18カ月間、毎月500ドル(約5万4000円)を支給する内容で、規模が小さすぎる。メディアは受給者の一部に取材して報道しているが、これも結果を左右し、町の決定に影響を与えかねない。 

フィンランドが2018年末まで2年間行った実験も、失業者にのみ着目したものだった。2月に公表された結果の速報によると、2000人に毎月560ユーロ(約6万8000円)が給付されたが、対象者全体の失業率に変化はなかった。一方で、受給者はストレスが軽減されたと報告している。 

だからこそ、今回Yコンビネーターが始めた研究には価値がある。米国の2つの州に住む1000人が、3年間にわたり毎月1000ドルを受け取る。受給者は、米国の平均所得である3万7000ドル以上稼いではいけない。 

受給者は匿名で、多様な性別や人種構成を反映したものになる。研究内容には、心理面や家計の健全性、子供への影響、そして犯罪率への影響が含まれる。研究対象になった州は今年後半に発表されるが、具体的な地名は公表されない。 

ベーシックインカム制度の研究にかかるコストは、公的資金で負担するには大きすぎるだろう。Yコンビネーターの研究プロジェクトの予算6000万ドルは、同社顧問で前会長のサム・アルトマン氏を含めた民間の寄付者から集められる。フェイスブックの共同創業者アンドリュー・マッコーラム氏も、予算300万ドルのストックトンの実験に寄付をした1人だ。 

民間がベーシックインカム制度の研究に参加することについて、政府に任せた方がよいと考える人々は難色を示すかもしれない。 

だがYコンビネーターは、研究の厳密さと中立性を確保するためにスタンフォード大学などと提携した。全体的に高い基準が設定されたことと相まって、この研究は政策立案に携わる政治家などにより有益な結果をもたらすだろう。 

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。