[サンフランシスコ/ワシントン 16日 ロイター] – 中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)にチップを供給しているクアルコムやインテルなどの米国半導体各社が、密かに自国政府に圧力をかけ、ファーウェイに対する販売禁止措置を緩和するよう求めている。 

一方、ファーウェイは政府に対する表立ったロビー活動を控えているという。この件に詳しい関係者が明らかにした。 

インテルやザイリンクスなど米半導体大手の幹部は5月末、米商務省との会合に出席し、ブラックリストに載ったファーウェイへの対応について協議した、と1人の関係者は語った。 

今回の制裁措置では、世界最大の電気通信機器メーカーであるファーウェイに対して、米国サプライヤーが製品供給することは国家安全保障上の懸念があると判断され、特別の許可がない限り禁止された。 

クアルコムもこの件について商務省に働きかけている、と4人の関係者が明らかにした。 

ファーウェイの中でもスマートフォンやサーバーなどの製品を販売している部門は一般的に入手可能なパーツを使っており、第5世代(5G)移動通信システム向けネットワーク用設備と違い、安全保障上の懸念が生じる可能性は低い、と各社は主張している。3人の関係者はそう語る。 

「ファーウェイを助けるという話ではない。米国企業に対する打撃を防ぐということだ」とそのうちの1人は言う。 

ファーウェイが2018年に部品購入のために費やした金額は700億ドル(約7兆5000億円)。そのうち約110億ドルは、クアルコムインテルマイクロン・テクノロジーなどの米国企業に流れ込んだ。 

クアルコムの事情に通じた人物によれば、クアルコムはスマートフォンやスマートウオッチなど一般的なデバイスで用いられるチップのファーウェイ向け出荷を継続したいと考えているという。 

米国半導体工業会(SIA)は、半導体メーカーを対象とした販売禁止措置を各社が遵守しやすくするとともに、その影響について当局者に説明できるよう、各社を代表して政府との協議の場を設けたことを認めている。 

SIAのジミー・グッドリッチ副会長(グローバル政策担当)は、「国家安全保障に関係しないテクノロジーまで禁止命令の対象範囲に含めるべきではないように思われる。我々はこの見解を政府に伝えた」と語った。 

今回の禁止措置は、数カ月にわたって続く米中間の貿易紛争を決着するための協議が物別れに終った直後に実施された。米中の対立は、米国が中国による企業スパイ活動、知的財産権の侵害、技術移転の強要を非難したことにより、さらに過熱した。 

ファーウェイの梁華会長は今月上旬、中国国内で記者団に対し、ファーウェイ向けにハードウェア、ソフトウェア、技術サービスを提供しているグーグルも、販売を継続できるよう禁止措置の緩和を主張している、と語っている。 

アルファベット傘下のグーグルは声明で、新たなルールをきちんと遵守できるよう商務省と協力している、と述べた。 

商務省の代表者の1人は、同省は「企業からの規制要件の範囲に関する問い合わせに日常的に対応している」と述べ、企業との協議は「法執行上の動きに影響を与えていない」としている。 

インテル、ザイリンクス、クアルコムはコメントを拒否した。ファーウェイにもコメントを求めたが、回答は得られなかった。 

ファーウェイの広報・渉外担当副社長、アンドリュー・ウィリアムソン氏は、メキシコで行われたインタビューで、ファーウェイが自社の代わりにロビー活動を行うよう特に他企業に頼んだことはない、と述べた。 

「彼らは自分の意志でそうしている。なぜなら彼らにとってファーウェイは主要顧客の1つだからだ」とウィリアムソン氏は言い、半導体メーカーは、ファーウェイを失うことが「破滅的な」結果をもたらしかねないことを承知している、と付け加えた。 

中国ウォッチャーによれば、米国のサプライヤーは事実上、不可能に近い難業に挑んでいるという。スパイ容疑者や泥棒、制裁破りを支援していると見られたくはないが、優良顧客を失い、その顧客が他国でサプライヤーを開拓してしまうことを恐れているのだ。 

<コミュニケーション不調> 

スマートフォンメーカーとして世界トップレベルでもあるファーウェイは、今回の禁止措置に関して、首都ワシントンでの古典的なロビー活動という点ではほとんど動いていない。だが、ファーウェイの方針に詳しい2人の人物によれば、同社は商務省に書簡を送ることを検討しているという。 

梁会長は今月上旬、記者団に対し「意思疎通のチャンネルがまったくない」と語っている。 前述の2人によれば、ブラックリストの対象となってから1カ月、ファーウェイはこの件について米国政府と協議していないという。 

ファーウェイは、今回の禁止措置以前からロビー活動を縮小していた。ロイターが報道したように、ファーウェイは昨年、ワシントン支社の社員5人を解雇し、そのなかには渉外担当副社長も含まれていた。またロビー活動の予算も削減している。 

とはいえ、ファーウェイは司法の場において熱のこもった戦いを仕掛けており、米政府の主張に対抗して自社の立場を主張する広報キャンペーンを開始している。2月には米国の複数の主要紙に全面広告を掲載し、その前には、欧米でのダークなイメージを緩和することを狙って、任正非最高経営責任者(CEO)が一連のインタビューに応じている。 

アナリストらによれば、ファーウェイの対応は、トランプ政権がファーウェイ締め出しに向けた国際的なキャンペーンを開始するなかで自社の影響力低下を認識していることを裏付けている。 

ワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)のサイバー問題専門家ジム・ルイス氏は、「ファーウェイは次にどう動くべきか、途方に暮れている」と語る。「米国におけるファーウェイの立場は非常に悪い。ファーウェイのためにあえて便宜を図ろうという者は誰もいない」 

とはいえ、禁止措置には現実的な影響も伴う。 半導体大手ブロードコムは商務省に対するロビー活動を行っていないものの、米中貿易紛争とファーウェイをめぐる禁止措置によって、同社の今年の売上高が20億ドル減少するという予測を発表し、世界中の半導体産業に衝撃を与えた。 

商務省も、禁止措置が導入されて数日後には妥協する姿勢を見せている。5月20日には、既存顧客がネットワークや設備の信頼性を維持できるよう、ファーウェイによる米国製品の購入を認める一時的な措置を発表している。 

(翻訳:エァクレーレン)