中国の習近平国家主席=29日、大阪市内(AFP時事)

 米国との貿易戦争を抱える中国の習近平国家主席は、「逆風」の中で20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)に臨んだ。29日のトランプ米大統領との会談終了直後、中国国営メディアは「米国は対中追加関税を課さず」と一斉に速報。硬い表情が目立った習氏は、サミット閉幕時には笑みを浮かべて各国首脳と握手した。米国との妥協を許さない国内世論に向けて「外交勝利」を演出した。

 ◇「100年ぶりの大変化」

 習氏は、27日の安倍晋三首相との会談で「世界は今、100年ぶりの大変化を迎えている」という国際情勢認識を示した。ちょうど100年前、世界列強の圧迫を受けた中国ではナショナリズムが高揚し、愛国抗日の「五四運動」が起こった。それが2年後の中国共産党誕生につながった。「100年ぶりの大変化」は現在の米中覇権争いが念頭にある。

 習氏は、屈辱からはい上がった中国近代史を好む。「今、われわれは新たな長征にあり、内外の重大な挑戦に勝たなければならない」。5月下旬、1930年代半ばに共産党が国民党の攻撃を逃れるために実行した苦難の行軍「長征」を持ち出した。現在の米中対立を「新たな長征」に例え、持久戦への覚悟を国民に求めたのだ。

 国民の対米ナショナリズムを高めて臨んだG20は、習氏にとって外交交渉という名の「戦場」と化した。笑顔が少なかったのは、国内の厳しい反応を意識したものだ。習氏の大阪到着を伝えた28日付の共産党機関紙・人民日報は論評で「米国の追加関税は無用。中国はとことん戦う力がある」と訴え、妥協の選択肢がないことを強調した。

 ◇「友」「敵」の戦略

 G20を前にした習氏にとっての誤算は、米中対立に加え、香港で大規模デモが起こり、中国への国際的圧力が強まったことだった。20、21両日に北朝鮮を電撃的に訪問した習氏は、大阪で「金正恩朝鮮労働党委員長の意向」というカードを切り、存在感を高めようとした。同時に「友」を引き込み、「敵」(米国)を追い込むという伝統的戦略を駆使した。

 日本に対して「国賓来日受け入れ」のほか、「正恩氏に安倍氏の考えを伝えた」と明かし、安倍首相を喜ばせた。新興5カ国(BRICS)やアフリカ諸国との会談では保護主義反対を提起し、米国をけん制した。

 中国外務省によると、習氏はドイツのメルケル首相に対し、次世代通信規格「5G」などでの協力を提案した。独政府は、5G技術を世界的にリードする中国通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)を排除するトランプ政権と一線を画す。習氏は米中ハイテク覇権争いの象徴であるファーウェイ問題でドイツを引き込もうとした。

 中国国営新華社通信は、米中首脳会談終了約1時間後の午後2時14分(日本時間)、異例の早さで会談の詳細な内容を報道した。「私は中国に敵意はない」。その約1時間後に予定されていたトランプ氏の記者会見の前に、会談での同氏の発言を伝えることで、情報戦を制しようとしたのだ。