4日から韓国向け半導体材料の輸出規制を強化した政府が、「世界貿易機関(WTO)の協定違反の恐れがある」との指摘に神経をとがらせている。かつて協定違反とされた中国の対日レアアース輸出規制との違いを強調し、違反ではないと主張する。一方、レアアースで日本が「脱中国」を進めたのと同じく、韓国が代替品を調達して「脱日本」を進める恐れがある。
政府がWTOの協定違反ではないとする根拠は、武器や軍用品に転用できる製品については、関税貿易一般協定(GATT)で安全を守るために輸出規制が例外として認められていることだ。
経済産業省幹部によると、輸出管理の日韓当局者がここ3年間で1度しか会議を開けずに意思疎通ができない中、最近になって半導体材料の輸出に絡んで不適切な事案が続いたという。軍用品にもなる危険性の高い製品を、輸出管理の実態に疑いのある国へ審査を簡略化して輸出することはできないと主張。優遇措置がなくなるだけで「正しい申請がくれば輸出を許可する」とし、協定違反にはならないという理屈だ。
政府幹部がこれを補強するために挙げているのが、中国によるレアアースの対日輸出規制だ。尖閣諸島をめぐり日中関係が緊迫した2010年、供給の9割を占めるレアアースの日本などへの輸出量を絞った。WTOへ訴えられた中国は、GATTで認められている環境保護のための輸出規制だと主張したが、正当化できないとして敗訴した。
経産省幹部は「今回の規制は安全のためだ」と、中国の違反事例との違いを説く。ただ、政府は韓国人元徴用工への損害賠償問題を挙げて「信頼関係が著しく損なわれた」ことが規制強化の最後の引き金になったとも説明しており、政治的な思惑ととられるリスクも残る。(西山明宏)
日本の優位、揺らぐ可能性も
中国のレアアースの輸出規制では、スマートフォンや省エネ家電、次世代自動車など先端技術製品の製造に影響が出た。こうしたリスクを減らそうと、日本ではレアアースの使用量を減らす技術開発が進んだ。
ホンダの幹部は3日の技術説明会で、レアアースについて「心配をしなくてもいいようなモーターの技術を持っている」と強調した。自動車では、高温でもモーターの磁石の性能を落とさないようにレアアースを使うことが多いが、ホンダは12年、鉄鋼メーカーの大同特殊鋼とレアアースの使用量を減らす研究に着手。16年に全面改良した車種で、レアアースの「ジスプロシウム」を使わない磁石を採用した。昨年売り出したハイブリッド車にも使う。
トヨタ自動車は昨年2月、レアアースの「ネオジム」の使用量を最大50%減らしても、従来通りの性能を確保できる磁石を発表。ロボットなど幅広い分野にも応用する考えだ。
調達先の多様化も進んだ。日本のレアアースの輸入先に占める中国のシェアは、10年の8割から17年に6割まで下がった。
日本の韓国向け輸出規制強化を受け、韓国政府は今後、半導体の素材を含む部品などの開発に、約6兆ウォン(約5500億円)の予算を優先的に充てることを決めた。今回規制が強化された感光材「レジスト」など3品目は、日本の世界シェアが9割に及ぶものもある。技術開発や調達先の多様化が進めば、日本の優位が揺らぐ可能性もある。
日本商工会議所の三村明夫会頭は4日の記者会見で「(韓国は)一部、自国でつくる方向に動く。そういう意味では影響が出てくる」と話した。(友田雄大、伊藤弘毅)