韓国の文在寅大統領(写真:ロイター/アフロ)
韓国の文在寅大統領は2日の閣議で、次のように述べたという。
「南北に続いて米朝も、文書上の署名ではないが、事実上の敵対関係の終息と新しい平和時代の本格的な始まりを宣言したと言える」
6月30日に板門店(パンムンジョム)で行われた事実上の米朝首脳会談を巡っての発言だ。トランプ米大統領が米国の首脳として、初めて北朝鮮の地を踏んだことなどを高く評価したわけだ。ところがこれに対し、またもや米国側から否定する声が出た。
(参考記事:「考え方が違う」米国から文在寅氏に不快感…北朝鮮もダメ出し)
朝鮮日報(日本語版)5日付によれば、トランプ政権の高官は「米国の考えは違う。敵対関係終息に向けた道の始まりにすぎない」と語ったという。
さらに同紙によると、米国務省のスティーブン・ビーガン北朝鮮政策特別代表は「ムン(文在寅氏)が一体なぜあんなことを言い出したのか分からない」として、文在寅氏の別の発言に対して不快感を表したという。
その発言とは文在寅氏が6月26日、「(米朝)両国間の第3次首脳会談に関する対話が続いている。ハノイ会談で互いの立場について理解が進んだ状態での水面下の対話」と発言していたものだ。これを受けてビーガン氏は記者団に対し、「米朝第3次首脳会談のための水面下の交渉は全くなかった」ときっぱり否定したというのだ。
文在寅氏はなぜ、このような「ズレた発言」を続けるのか。それはひとえに、「北朝鮮との対話には明るい未来がある」と自国民に強調したいがためだろう。しかし、対話が韓国にとってそう甘いものにならないであろうことは、北朝鮮自身が発信している。
現実から乖離した希望的観測を並べ、そこにしがみつくのは文在寅政権の悪い癖だ。その典型的な例が、昨年10月の文在寅氏の欧州歴訪時に出た、「ローマ法王が訪朝受諾」説だ。
この歴訪の際、文在寅氏はバチカンでローマ法王フランシスコと会談した。青瓦台(韓国大統領府)によると、法王は文氏から北朝鮮の金正恩党委員長の訪朝要請を伝えられ、「(北朝鮮から)公式の招請があれば無条件で返事をするし、私は行くことができる」と述べたという。これを受け、青瓦台はローマ法王が北朝鮮訪問を「受諾」したことを、歴訪最大の成果として誇示した。
しかし、その後の経過はどうか。ローマ法王の訪朝計画など、影も形もない。当たり前である。法王は実際のところ、北朝鮮に「行く」とは言っていなかったのだ。
(参考記事:やっぱり韓国はどうかしている。法王の「訪朝承諾」で大騒ぎ)
そもそも、金正恩氏がローマ法王を招請すること自体が難しい。残忍な人権侵害が続いている限り、法王が招請に応じられないであろうことは明らかだからだ。
(参考記事:手錠をはめた女性の口にボロ布を詰め…金正恩「拷問部隊」の鬼畜行為)
仮にローマ法王が北朝鮮に行くことになるとしたら、それは同国において、人権問題や信仰の自由を巡る状況に改善の兆しが見えたときだ。文在寅氏は、本気でローマ法王の訪朝を望むのなら、北朝鮮の人権問題により真剣に取り組む必要がある。
(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態)
しかし実際には、文在寅政権は金正恩氏の機嫌を取るために、北朝鮮の人権問題から露骨に目を背けている。こうした大いなる矛盾から抜け出さない限り、文在寅政権の対北政策に未来はない。