トランプ大統領が中国からの輸入製品3000億ドル相当分(約32兆円相当)に10%の制裁関税を課すと発表した。9月1日に発動する。 先月末に中国・上海で行われた閣僚級協議で進展がなかったことを受けた措置と見られる。同協議に関して双方が「建設的だった」とのコメントを発表している。このコメントが実態に即したものでなかったことを大統領自ら明らかにしたようなものだ。ロイターによるとトランプ氏は「中国が米農産品を購入するという約束を果たしていないと不満を表明したほか、合成オピオイド『フェンタニル』の取り締まりで習近平・中国国家主席が十分な取り組みを行っていないと批判した」。フェンタニルは初めて公になった事実かも。

それにしてもトランプ氏の反応は単純だ。制裁関税をかければ中国が折れると思っている。ここから先は想像だが、トランプ氏が中国を刺激すれば刺激するほど、中国は降りづらくなる。習近平主席の国内的な権力基盤はかなり脆弱になっている。恫喝しながら妥協を強要する相手に同調することはできない。同調した途端に「弱腰」との批判が巻き起こる。憲法を改正し「核心」となった習主席だが、権力の実態は意外に脆いのではないか。5月初旬、合意寸前だった交渉のテーブルをひっくり返さざるを得なかった原因は、国内的な権力基盤の弱さにあったような気がする。仮にそうだとすれば、6月末のG20で交渉再開にこぎつけたものの、国内の権力構造に変化はないのだろう。張り子のトラはトランプ氏になびけないのである。

米中に限らず自由貿易にともなうインバランスはいつの時代にも存在した。日米も1980年代から90年代にかけて貿易戦争に明け暮れた。米国は最終的に日本に構造協議を持ちかけてきた。今から振り返れば飛ぶ鳥を落とす勢いだった日本は、好景気の中で低金利の継続を余儀なくされ、為す術もなくバブルに突入した。そのあとはいうまでもない。バブル崩壊とデフレスパイラルの悪夢だ。失われた20年は今や30年になろうとしている。中国はこうした事情をよく知っているはずだ。ここで譲れば日本の二の舞になる。これに国内の権力闘争が絡んでいる。習主席はおそらく身動きが取れないのだろう。そこにトランプ氏が感情的に追い討ちをかける。パワーゲームは意外に繊細な面がある。そこを無視して無骨に攻める。問題は間違いなく悪化する。これがトランプ・ディールの限界だろう。