- 西川社長は権利行使日をずらすことで当初より4700万円多く受け取る
- ナダ氏はゴーン前会長の不正を調査-日産は社債2500億円発行延期
日産自動車の西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)が株価連動型報酬で権利の行使日を変更して当初より多くの額を受け取った問題で、西川社長以外にも星野朝子副社長やハリ・ナダ専務ら複数の幹部も類似の手法で報酬を受けていたことが5日、複数の関係者の話で分かった。
関係者らによると、西川氏らの報酬問題は4日開催の監査委員会の会合で報告された。西川氏に関しては当初の権利行使日をずらして2013年5月21日の株価を基準として報酬が支払われた。
西川氏は結果として4700万円多く受け取ったとされるが、税金を含めると日産が実際に支払った金額はそれより大幅に多いという。西川氏以外では星野氏、ナダ氏など計5人程度が類似の手法で報酬を多く受け取っていたことが確認されたという。
星野氏は日本債券信用銀行や調査会社勤務を経て02年に日産入社。執行役員、専務を経て今年5月に副社長に昇格していた。ナダ氏は1990年入社で法務部門で長く勤務。弁護士の資格を持ち、カルロス・ゴーン前会長を巡る疑惑の調査にも携わっていた。両氏に電話や電子メールで取材を試みたがコメントは得られなかった。
西川氏の報酬を巡っては、ゴーン前会長とともに金融商品取引法違反の罪で東京地検に起訴されたグレッグ・ケリー元代表取締役が今年6月、月刊誌文芸春秋とのインタビューで、西川氏が過去に株価連動報酬であるストック・アプリシエーション権(SAR)の行使日を1週間ずらすことで多額の現金を手にしたなどと指摘した。
2カ月に及ぶ調査
この報道を受け、日産は独立社外取締役らの指示で内部調査を開始。6月の定時株主総会直前に取締役会を開いて西川氏から聴取する方針だったが、調査中のため実現しなかった。調査はお盆期間を挟んで2カ月近くに及び、9日開催予定の取締役会で調査結果が報告されるという。
西川氏は5日朝、報酬の仕組みの運用や事務局の運用の仕方に問題があったことがはっきりしたとして謝罪し、本来の手続きとは違う差額については会社に返納する意向を記者団に示した。NHKは西川社長以外の複数の幹部についても社内の規定に反する形で権利の行使日を変更し、報酬を多く受け取った事例が確認されたと関係者を引用して報じていた。
日産広報担当の百瀬梓氏は日産の内部調査の結果は9日の取締役会に報告される予定だとし、報告の内容には株価連動報酬の問題も含まれると聞いていると話した。広報担当の浜口貞行氏は星野氏やナダ氏を巡る問題についてコメントを控えた。
ブルームバーグのデータによると、日産の株価は10年から12年末にかけて600円から900円程度の間で推移。13年に入るとアベノミクスによる円安の進行もあって株価は本格的な上昇基調に入った。報酬の基準日となった5月21日の終値は1232円で年初来高値を付けた日だった。株価はその日を境に下落傾向となり、この株価を終値ベースで再び上回ったのは15年以降だった。
業績は低迷
日産では長年経営トップとして君臨したゴーン前会長が有価証券報告書に役員報酬を過少に記載したり、日産の資金の一部を私的に流用したりしたなどとして金商法違反や会社法違反(特別背任)で東京地検特捜部に逮捕、起訴された。
西川氏は05年6月に取締役に就任。不正があったとされる13年5月当時は副社長兼チーフコンペティティブオフィサー(CCO)を務めていた。ゴーン前会長に関する事件では金商法違反の罪では法人としての日産も起訴されたものの西川氏は罪に問われなかった。
その一方で主力市場の米国事業の不振などで日産の業績は低迷。今期(20年3月期)の営業利益は前期比28%減の2300億円になる見通しだ。リーマン・ショックで営業赤字となった09年3月期以降で最も低い水準となり、7月には世界で1万2500人規模の人員削減を含む再建策を打ち出していた。
こうした中、日産の株主である日本生命保険は3日、6月の日産の定時株主総会で西川社長の取締役選任案に反対していたことを明らかにした。反対の理由については「不祥事等」とし、詳細については説明していない。
また、日産は5日起債予定の社債の発行を延期した。主幹事の1社の三菱UFJモルガン・スタンレー証券が資料で明らかにしたもので発行体の都合としている。社債は4本立てで発行額は4日の段階で2500億円に内定、日産として国内債の一度の調達額として最大だった。