[ブランクフルト 12日 ロイター] – 欧州中央銀行(ECB)は12日の理事会で、利下げや量的緩和(QE)の再開など包括的な追加金融緩和策の導入を決定した。ユーロ圏成長の下支えや物価の押し上げに向けあらゆる措置を講じる決意を示した。 

市中銀行が余剰資金をECBに預け入れる際の適用金利である預金金利を現行のマイナス0.4%からマイナス0.5%に引き下げる。また利下げに伴い金利階層化を導入しマイナス金利の深掘りが銀行に及ぼす影響を軽減する。さらに11月から月額200億ユーロの債券買い入れを行うほか、銀行を対象とした長期資金供給オペ(TLTRO)の条件を緩和する。 

ECBは声明で、債券買い入れについて「金利政策の緩和効果が発揮されるよう、利上げを開始するまで必要なだけ継続する」と表明。その上で「インフレ期待が2%弱の水準まで確実に近づくまで金利は現在の水準以下にとどまる見通し」と述べた。 

ドラギ総裁は理事会後の会見で「前回の理事会以降に入手した情報によると、ユーロ圏経済の脆弱性は一段と長期化しているほか、顕著な下振れリスクの継続や物価圧力の抑制がうかがえる」と指摘。さらに「このペースでの債券買い入れなら上限引き上げを議論する必要もなく、かなりの長期間継続する余地がある」と認めた。 

その上で「すべての手段を検討し、実施する用意があると私が述べてきたことを覚えているだろう。ECBは今日それを実行した」と述べた。 

ECBが同日公表した最新のスタッフ予想によると、2019、20年の成長率見通しはともに下方修正された。今年は1.1%、来年は1.2%と予想され、ECBによる追加行動の必要性を示した。19─21各年のインフレ見通しもすべて引き下げられた。 

ドラギ総裁は、英国の「合意なき」欧州連合(EU)離脱や米中貿易摩擦激化の可能性はスタッフ予想に勘案されていないとした。 

こうした不透明要因が存在する中、ECBの一連の措置がユーロ圏経済支援でどの程度効果を発揮するかは不明だ。 

関係筋によると、債券買い入れ再開を巡ってはワイトマン独連銀総裁ビルロワドガロー仏中銀総裁クーレECB専務理事の3人が反対し、ECB内でも効果に対する疑念が出ていることが浮き彫りになった。 

ドラギ総裁も会見でこれまでに増して財政刺激策の重要性を訴えた。「財政政策が主導する時期に来ている」とし、「財政政策が主要な手段になる必要があると見解が一致した」と述べた。 

TSロンバードのマネジングディレクター、シュウェタ・シングー氏は「マイナス金利の深掘りは貯蓄率を押し上げる可能性があり、こうした政策が裏目に出ることが主要なリスク」と指摘。「現時点ではユーロの下落余地もインフレ期待上昇余地も限られている恐れがある」と述べた。 

ECBは昨年12月、金融危機以降続けてきた2兆6000億ユーロに及ぶ資産購入プログラムを終了したばかり。ただ、同プログラムの刺激効果は限定的なものにとどまった。 

ベレンベルクのアナリスト、ホルガー・シュミーディング氏は「ECBがもっと積極的に金融緩和を行ったところで何かが大きく変わるとは思えない」と指摘。「米中貿易戦争や英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)といった外部ショックが域内経済の回復を阻害し、不確実性がこれほど根強い中では、いくら家計や企業の借り入れコストが低下しても個人消費や企業投資が大幅に持ち直すとは考えにくい」と述べた。 

また、債券買い入れ策を「利上げを開始するまで必要なだけ継続する」とする方針は、近く就任するクリスティーヌ・ラガルド次期ECB総裁の任期の大半を通じ、債券買い入れが継続する可能性を示唆している。 

INGのエコノミスト、カースティン・ブルゼスキ氏はこの日のECBの決定について、「ドラギ氏の遺産を将来のECBの政策決定に祭ったことになる」と指摘した。 

ドラギ総裁は来月に8年の任期満了を迎える。 

ECBが予想を上回る大型刺激策に動いたことで、政策決定を来週に控える米連邦準備理事会(FRB)や日銀への緩和圧力が高まる可能性がある。 

トランプ米大統領はECBの動きに反発。ツイッターへの投稿で「ECBは非常に強いドルに対するユーロの価値を引き下げることに尽力そして成功し、米国の輸出に打撃を与える。FRBは手をこまねいているだけだ。FRBが金を貸りて報酬を得る一方、われわれは金利を払っている!」と述べた。