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韓国大統領統一外交安保特別補佐官 文正仁氏

 ――対韓輸出規制の強化と日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA(ジーソミア))破棄で最悪の日韓関係ですが、対話の機運すらありません。

 「日本も韓国も、相手をたたくと人気が出る構造になっている。相手に融和的な態度をとると国内政治で難しい状況に陥る。だから強い姿勢に出る。指導者間の不信もある。歴史問題が解決されないと韓国との協力は難しいと主張を繰り返す安倍晋三首相に対し、文在寅(ムンジェイン)大統領は疲れを感じ、諦めかけているようだ」

 ――関係悪化の契機は昨年10月に韓国大法院(最高裁)が出した元徴用工への賠償判決です。1965年の日韓請求権協定は①外交協議②解決しない場合は日韓と第三国の仲裁委の設置③第三国のみの仲裁委設置、を定めますが、ここで双方はすれ違っています。

 「日本側は一方的に①ができなかったと見なして次の手続きに進んだ。韓国側はその後6月に対応案を出してから①の協議に応じる構えを示したが、日本側は案とともに拒んだ。韓国の人々の心情を考えて形式的にでも協議に応じるべきだった。日韓ではかつては相手の立場になって考える気持ちがあったが、今回の日本は高圧的で一方的だ」

 「朴槿恵(パククネ)・前政権時の大法院長(最高裁長官)は政権の意向を受け、徴用工訴訟の進行を遅らせた罪に問われている。文政権も司法と協議すれば違法だ。文政権は朴氏弾劾(だんがい)の民意から生まれた。こうした法的、政治的な敏感さを日本が少しでも理解し、特別法制定など解決に向けて協力すれば『共通の代替案』を見いだすことができると思う

 ――ただ、歴史問題では日本には「謝罪疲れ」、韓国には「心からの謝罪はなかった」との思いがあり、共通認識がないと指摘していますね。

 「それが問題の本質だ。世代が変われば状況も変わるとの見方もあるが、日本では修正された教科書で学んだ世代もいて、韓国では民族主義が強まる傾向にある。反日、反韓は若い世代の方が強くなるのではないか」

 ――複雑に悪化した状況を改善する方法はありますか。

 「小渕恵三首相と金大中(キムデジュン)大統領が韓国での日本文化解禁を果たしたように、小さくても『成功例』をつくらないと。北朝鮮問題や経済分野の協力などで、双方の国民に互いの必要性を認識してもらうことが助けになると思う」(聞き手・神谷毅)

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 〈ムン・ジョンイン〉1951年生まれ。延世大名誉特任教授。2000年と07年の南北首脳会談では韓国大統領とともに平壌を訪問。韓国平和学会長、金大中大統領図書館長なども務めた。