• 6、7月のイデコ申込件数、ネット証券では5月比1.5倍に拡大
  • 2000万円問題が資産形成の関心高める-SBI証・橋本執行役員

老後に備えて資産運用を始める動きが個人の間でじわり広がり始めた。掛け金が全額所得控除されるなど税制面でメリットのある個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)の申込件数は、「2000万円問題」をきっかけに金融機関で伸びている。

国民年金基金連合会によると、7月末のイデコ加入者数は前年同月比34%増の131万1045人。7月は新規加入者が同8.5%増の3万6778人と高かった。オンライン証券最大手のSBI証券では、イデコ口座の申し込み件数が6、7月、いわゆる2000万円問題が注目される直前の5月に比べて約1.5倍増えた。マネックス証券でも同様に6、7月はイデコ申し込み件数が約1.5倍だった。

金融庁の金融審議会は6月、夫65歳以上、妻60歳以上の無職夫婦の場合、年金収入約21万円に対し支出が約26万円で赤字になっていると報告した。あとの人生を30年と仮定すれば貯蓄を約2000万円取り崩す必要があると試算したため年金制度への不安や批判が拡大、「2000万円問題」と呼ばれるきっかけになった同報告書は事実上撤回された。

埼玉県在住で会社員の峰岸朝子さん(47歳)は、老後資金を準備する手段として税制上の優遇措置のあるイデコに注目した。公的年金を補うためイデコに加入して投資信託などで運用を開始しようと検討を始めた。金融庁の報告書で「老後は夫婦で2000万円不足する」と聞いたときは「大丈夫かな」と将来への不安を覚えたという。

SBI証券証執行役員の橋本隆吾氏は、2000万円問題が「フォローの風になっている」と話す。人生100年時代を考えて「資産が足りないことへの備え」として資産形成への機運は高まっているという。内閣府が8月30日に公表した「国民生活に関する世論調査」からも傾向は伺える。調査によると、資産や貯蓄が「不満」「やや不満」と答えたのは54.3%と高い。今後力を入れていくことでは「資産・貯蓄」が30.9%で1位の「健康」に続く。

世界経済フォーラム(WEF)は、主要国の中で老後向け資金不足が最も懸念されるのは日本だと指摘する。安全資産に傾斜し過ぎていて資金が増えないためだ。日本銀行によると19年6月末の家計の金融資産は1860兆円だが、現預金が53%を占め、投資商品は約16%しかない。米国(3月末)の現預金13%、投資商品53%とは真逆だ。

東海東京調査センターの武藤弘明チーフエコノミストは、貯蓄から投資へのシフトは期待したほど増えないとみる。バブル崩壊後に株価が長らく低迷した苦い経験が残るためで、日本には「預金が一番安全という神話があり、株はギャンブル的と思われている」と話す。シフトを促すのに大事なのは金融教育で「株やイデコなどの周知キャンペーンなども必要」という。

峰岸さんは「ねんきん定期便で通知される分はもらえると思う」という程度に公的年金を頼る気構えだが、「生涯現役なぐらいに、年金にプラスして働かざるを得ないかもしれない」と肩を落とす。2000万円問題で加入を考えるきっかけになったイデコを利用して、老後への不安を少しでも和らげることを彼女は願っている。