トランプ米大統領(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=6月30日、板門店(AFP時事)
トランプ米大統領(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=6月30日、板門店(AFP時事)

 【ソウル、ワシントン時事】非核化をめぐる米朝の実務協議は、北朝鮮が一方的に「決裂」を主張する形で終わり、本格交渉の再開に早くも暗雲が立ち込めた。米側は2週間以内の再協議を求めたが、北朝鮮は年末までの「熟考」を提案。来年の米大統領選挙を控え、外交成果を焦るトランプ大統領を相手に、金正恩朝鮮労働党委員長が駆け引きを繰り広げている。

 「米国が一方的な立場にしがみつけば、百回、千回と向かい合っても対話は意味がない」。北朝鮮首席代表の金明吉巡回大使は5日午後、実務協議が終了し、ストックホルム近郊の施設を出た15分後、米側が協議で「旧態依然とした立場」を示したことを大使館前でこう批判した。

 韓国の聯合ニュースによると、金明吉氏はこの日、協議の席を一時外して大使館に移動し、約2時間後に協議に復帰。声明は協議終了後、間もなく発表されたことから、本国と連絡の上、既に「決裂の演出」を準備していた可能性がある

 2月末のハノイでの首脳会談では、正恩氏が制裁解除を求めたものの、トランプ氏が席を立ち、トップ交渉は物別れに。非核化の具体化に下交渉の必要性を認識したトランプ氏は6月末に板門店で正恩氏と再会し、実務協議再開を取り付けたが、ようやく実現した協議で北朝鮮が「意趣返し」をした形となった。

 一部の米メディアは協議前、米側が寧辺の核施設廃棄などの措置の「見返り」に制裁の一部凍結を提案し、「段階的非核化」を事実上容認すると報じていた

 だが、北朝鮮は協議で体制保証と制裁解除を求め、既に取った非核化措置に米側が「誠意をもって応じる」ことが必要だとする従来の主張を繰り返した。非核化の進め方で双方の隔たりが埋まった形跡は見当たらない。

 ポンペオ国務長官は協議前、「今後数週間から数カ月対話を行うための道筋をつけることができると願っている」と交渉継続に期待感を示していた。だが、北朝鮮外務省報道官は6日夜米国の敵視政策撤回までは協議に応じず、対話は米国の態度次第とする考えを表明。期限は年末までだと再び強調し、交渉の主導権は北朝鮮に移りつつある。

 ウクライナ疑惑をめぐり、再選を目指すトランプ氏は苦境に立たされる。功を焦るトランプ氏が再び世間の耳目を集めるため、準備不足のまま首脳会談に応じ、制裁解除などで安易に譲歩する懸念の声は少なくない。