スウェーデンのカロリンスカ研究所は7日、2019年のノーベル医学生理学賞を、米ハーバード大のウィリアム・ケリン教授▽英オックスフォード大のピーター・ラトクリフ教授▽米ジョンズ・ホプキンズ大のグレッグ・セメンザ教授――の3氏に授与すると発表した。授賞理由は「細胞の低酸素応答の仕組みの解明」。生命活動の維持に欠かせない細胞の機能を明らかにした点が評価された。
高地など酸素の薄い環境では、生物は酸素を運ぶ赤血球を増やすホルモンを分泌するなどして生き延びようとしている。セメンザ氏は細胞内でその指令を出すたんぱく質「HIF」を発見した。
HIFは、平常時は細胞内で常に作られては消えているが、低酸素状態になると細胞をそのストレスから解放するために働き出す。ケリン氏とラトクリフ氏は酸素が足りている平常時にHIFを分解する酵素を見つけた。
一方、研究成果は医療への応用も進む。慢性腎不全の人は赤血球を増やすホルモンをうまく作れず貧血になる。そこでHIFを活性化してホルモンを十分に分泌させる貧血治療薬が開発され、日本でも9月に承認された。
また、がん細胞は酸素が不足するためHIFを利用して成長を続ける。近藤科江(しなえ)・東京工業大教授(腫瘍生物学)は「HIFを制御することでがんを抑える研究が進んでいる」と話す。【信田真由美、須田桃子】