経団連が「経済成長・財政・社会保障の一体改革による安心の確保に向けて」と題する提言をまとめた。副題は「経済構造改革に関する提言」となっている。アベノミクスがデフレ脱却に向けて思い通りの成果をあげられない中で、日本が直面する課題を網羅した報告書でもある。安倍政権の目下最大の関心事は全世代型社会保障の抜本改革である。これに対して経団連の提言は、経済成長と財政を絡めた視点から一体改革を提案している。いくら抜本改革といっても社会保障だけを切り離して議論しても意味はない。あらゆる改革は常に一体的であるべきだ。そういう点では評価できるのだが、提言の根底にあるのは「財政の健全化」である。

それを象徴するのが「消費税率の10%超への引き上げも有力な選択肢の一つ」としている点である。結局経団連の報告書は財政の健全化のために社会保障で国民負担を増やし、足りない分は消費税率のさらなる引き上げで補い、何よりもまず財政を健全化する。そうすれば企業や家計部門の経済活動は活発化すると指摘している等しい。財政再建が重要であることに異論はないが、極端なことを言うとこの論理は日本経済を一端ぶち壊し、財政を健全化した上で経済成長と持続可能な社会保障を再構築するといっているのに等しい。こういう視点で国民の将来不安は本当に解消するのだろうか。もっと言えば、一端ぶち壊すと経済の再建は非常に難しくなる。「財政健全化による経済の活性化」は結局、経済学で言うところの“合成の誤謬”になる。

脱デフレを目指しているアベノミクスが、デフレ政策である消費増税を実行したように、経団連の報告書も論理的な間違いを犯している。はやい話、経済成長と財政再建と持続可能な社会保障の三つを同時に成立させることはできない。3つのうちの一つを実現するためには残り二つのどちらかを犠牲にするしかない。経済成長を実現するためには財政再建を諦めるか、社会保障を犠牲にするしか方法はない。民主的な選挙制度の下で社会保障を犠牲にすることはまずあり得ない。となれば、財政再建を諦めるしか方法がない。財政再建を実現するためには経済成長か社会保障を犠牲にする以外に方法はない。財政再建を通して経済成長と持続可能な社会保障を実現する、経団連の提言の“違和感”がここにある。