[ロンドン 3日 ロイター] – 問い:英国議会の解散総選挙の結果をどうやって予測するか。ただし、非常に多くの世論調査が間違っており、有権者の半数は投票先を決めておらず、誰が勝つかではなく、どれくらいの差で勝つかが重要な要因であるとする。 

答え:分からない。 

英国で12月12日に実施される総選挙の結果は、金融投資家にとって、巨額の利益/損失の分岐点になりかねない。彼らは今、自分で何とか答えを出そうとして、人工知能による分析から民間の世論調査、さらにはブックメーカーの予想手法まで、利用できる限りの予測ツールを揃えようとしている。 

もはや世論調査会社は頼りにならない―。これほど予測困難で、しかも金融投資にとって決定的に重要な選挙を前にして、ファンドマネジャーらはこう話す。世論調査会社が過去2回の英国の選挙で予測を失敗し、ブレグジットやトランプ氏当選についても大失策を演じたからだ。 

<「世論調査は実像をとらえていない」> 

ロンドンを本拠とするユーライゾンSLJでマクロ系ヘッジファンド・マネジャーを務めるスティーブン・ジェン氏は、「参考にするデータの85%はかつて世論調査の結果だったが、今では恐らく30%だ」と語る。「世界があまりに複雑になってしまい、かつては標準的な指標だった世論調査は、もはや実像を捉えていない」。 

ロイターでは、アビバ、リーガル・アンド・ジェネラル、NNインベストメント・パートナーズ、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ、M&Gインベストメンツなど、20社を超える大口投資家にインタビューを行った。 

インタビューでは、大半の投資家がAIベースの予測ツールを採用する考えを示した。選挙情勢を正確にとらえるには、ニュース報道やソーシャルメディア、ウェブ上での関心度、世論調査、ブックメーカーの予想オッズなどをさまざまに分析する必要があるからだ。 

ブレグジット問題によって、伝統的な政治的色分けは揺らいでいる。ボリス・ジョンソン首相が率いる与党保守党は迅速な欧州連合(EU)離脱を主張し、主要野党である労働党は国民投票のやり直しを公約、他の党はEU残留を掲げている。 

ジョンソン氏にとって、他党よりも多くの議席を得るだけでは十分ではないだろう。ブレグジット実現を確保するためには、議会での過半数が必要だ。それ以外の結果になれば、EU加盟継続をめぐる2回目の国民投票につながる可能性が高い。 

重大な岐路につながる判断を迫られている中、最近の調査では、有権者の半分が態度未決定の「浮動票」であると考えられている。 

BNPパリバで株式デリバティブ戦略グローバルヘッドを務めるエドワード・シング氏は、「率直に言って今回は、記憶にある限りで、圧倒的に最も予測困難な選挙だ」 

<集めるのは「センチメント」情報> 

NNインベストメント・パートナーズで約3000億ユーロの資産の運用を指揮するバレンティン・ファン・ニューウェンヒュイゼン氏は、有権者のムードを監視するために、マーケットサイキが提供するソーシャルメディア分析サービスを利用している、と語る。 

データ調査会社リフィニティブを介して自社商品を提供しているマーケットサイキは、約3000のサイトを追跡し、特定の主題に関連する表現を検索している。 

リフィニティブでクオンツ&フィード担当ディレクターを務めるエリック・フィシュキン氏によれば、選挙が近づくと、同社は「政権交代」や「社会的対立」といったパラメーターに関して有権者のセンチメントを追跡する場合があるという。リフィニティブは、ロイター・ニュースの親会社であるトムソン・ロイターが45%の株式を保有している。 

「どちらのパラメーターを見ても、ブレグジット国民投票以降で最も高い指標を示している」と同氏は言う。「選挙期間中にこれらの指標が上昇していけば、メディア報道全体のなかで、こうした話題が占める比率が高くなっていく」。 

ソーシャルメディア分析を使った選挙結果の試算は、実績が十分にあるとは言えない。だが、ドルトムント大学のヘンリク・ミューラー教授は、緊迫した英国の政治状況下で有権者のムードを推測する場合、これが重要なツールになる可能性がある、と主張している。 

ミューラー教授はシンクタンク「ブリューゲル・インスティチュート」に寄稿した論文で、2016年のブレグジット国民投票を前に自身が実施したツイッター投稿に基づくセンチメント分析を紹介、その中では世論調査やブックメーカーのオッズよりも「離脱」に振れる動きがより早く、正確に現れていたことを詳述している。 

「英国の状況はユニークで、この種の分析には理想的な環境だ。というのも、社会が『ブレグジット』という1つの問題を軸に二極化しており、ソーシャルメディア上で追跡しやすくなっているからだ」とミューラー教授はロイターに語った。 

だが、2018年のイタリア総選挙では、こうした手法で明確な兆候をつかむことはできず、2017年のフランス大統領選挙では、ソーシャルメディア「情報収集」会社の少なくとも1社が、極右マリーヌ・ルペン候補の勝利という誤った予測を示した。 

投資家からの需要を受けて、さまざまなブランドのデータ分析を販売する企業が数多く誕生している。たとえば米国のプリデータは、ウェブトラフィックのデータに機械学習アルゴリズムを適用することによって生成した指標を金融関係の顧客に販売している。 

プリデータは、ウェブトラフィックの内容よりもその出所と規模を調査しており、11月初めの分析では、英国における新規の有権者登録に関する検索が急増したという結果が出たと述べている。 

この動きは、パソコンよりも携帯電話によるウェブ閲覧に支えられたもので、2017年の選挙前の同じような時点に比べ、モバイル端末によるトラフィックが4倍も増えている。 

プリデータの研究ディレクター、エリック・ファルコン氏は、「1つ想定可能な仮説として、こうした動きは一般に、若年のウェブ利用者と関連づけられる」と話す。 

反ブレグジットに傾きがちな若い有権者の政治参加は、保守党にとってはマイナスであると考えられるかもしれない。 

<「荒稼ぎ」の可能性も> 

英国では小選挙区制のおかげで議席予想が困難になっている。つまり、合わせて650ある選挙区でそれぞれ最多得票となった候補者が議席を獲得する。この仕組みだと、国全体での得票率という尺度が役に立たない可能性がある。 

世論調査では保守党が約10ポイント優位に立っているが、BNPパリバは、2017年の選挙戦の同じ時点では保守党のリードはもっと大きかったが、投票当日にはほとんど差がなくなってしまったことを指摘する。 

世論調査会社ユーガブが作成したモデルによれば、今回の選挙で保守党は359議席を確保する勢いだが、増減ともに50議席の誤差があるとされている。この誤差の行方は、保守党が過半数となるか与野党伯仲になるか、つまりブレグジットが実現するか中止となるかを左右する大きな意味を持つ。 

アビバ・インベスターズでマルチアセット担当の最高投資責任者ピーター・フィッツジェラルド氏は、「英国の選挙は独特で、世論調査があまり参考にならない」と語る。 

マクロ系ヘッジファンド、ハイダー・キャピタル・マネジメントで最高投資責任者を務めるサイード・ハイダー氏は、世論調査よりもブックメーカーが提示するオッズの方が正確な予測になると話している。 

同氏は、ニュース報道や世論調査の結果を追うだけでなく、ブックメーカーのオッズを利用することにより、ブレグジット国民投票の結果を正確に予想し、それに基づいた関連投資で「荒稼ぎした」と言う。 

実際、複数の選挙における結果予測においては、ベットフェアなどのブックメーカーの方が優れた実績を見せている。ケンブリッジ大学が行ったある調査では、ギャンブル関係者は金融市場よりも何時間も前にブレグジット国民投票の結果を読み切っていたとされている。 

<「ハイリスク志向には好都合」> 

とはいえ、二者択一の国民投票に比べ、選挙結果についてはギャンブル市場があまり優れた指標にならない可能性もある。また、ギャンブル市場で動く資金は、通貨・債券市場における数十億ドルの取引額に比べればごくわずかだ。 

外為取引の主要決済サービスであるCLS銀行によれば、投資家の不安感を示すように、ポンド対ドル/対ユーロの1日当たりの平均取引額は11月に450億ドル相当まで減少した。選挙を前に市場参加者が模様眺めに徹しているからだ。ちなみに、2016年6月のブレグジット国民投票前には870億ドルだった。 

世論調査では一貫して保守党の十分な優位が示されており、今のところポンド高の材料と見なされているにもかかわらず、相場は1ポンド1.30ドルに留まっており、選挙結果予想に対する市場の疑念を示している。 

アビバのフィッツジェラルド氏など、独自の世論調査を武器にする投資家もいれば、ノイデータなどのデータ分析会社を使って、公開の調査結果を最大限に活用しようと試みる投資家もいる。 

ノイデータの創業者ラド・リーパス氏によれば、同社はヘッジファンド向けに過去の実績に基づく評価・ランク付けを経たメタデータ群を提供しており、過去の選挙において、どの世論調査会社が最も正確だったかというデータ群を提供することもできるという。 

どの戦略が有効か、そもそも有効な戦略があるのかはまだ不明だが、ユーライゾンSLJのジェン氏は、世論調査に対する信頼の低下は、投資家にとっては有利に働くかもしれない、との見方だ。「世論調査が信頼できないとなれば、それはハイリスク志向の投資家には悪い話ではない」と彼は言う。 

(翻訳:エァクレーレン)