2020年の政治はどうなるのか。安倍政権の足元では「桜を見る会」やカジノを含む統合型リゾート(IR)事業をめぐって問題が噴き出す。野党は通常国会で追及を強める構えだ。安倍晋三首相が衆院解散・総選挙に踏み切るのかどうかにも関心が集まる。
恒例の年頭会見にのぞんだ安倍首相は、金びょうぶを背に冒頭から11分にわたって全世代型社会保障改革などへの意欲について語った。
しかし、桜を見る会について質問が飛ぶと首相の表情がくもった。首相の答えは約30秒。他の代表質問への回答が3~4分だったことに比べても、この問題への首相の冷たさが際だつ。
十分な説明をしようとしない首相の姿勢は、支持率にも影を落としている。朝日新聞が12月に行った世論調査では、安倍内閣の支持率は38%。不支持率は42%で、1年ぶりに不支持が支持を上回った。
さらに昨年末には、安倍政権が成長戦略の柱とみていたIR事業をめぐり、元内閣府副大臣が逮捕された。
20日に召集される予定の通常国会では、野党の厳しい追及を受けることは確実だ。共産党の志位和夫委員長は6日の会見で「桜を見る会、カジノ汚職。もう断崖絶壁まで安倍首相は追い詰められている」と語った。自民党の船田元・衆院議員も6日のメールマガジンで「安倍政権のタガの緩みが顕在化してきたようだ」と批判した。
首相が局面打開をめざし、衆院解散・総選挙に踏み切る可能性もある。
解散日程をめぐっては、19年度の補正予算成立後、20年度予算成立後、通常国会の会期末などが取りざたされる。しかし、春には中国の習近平(シーチンピン)国家主席の来日や、秋篠宮さまが皇太子と同様の立場であることを示す「立皇嗣の礼」が、夏には東京五輪・パラリンピックが控えており、日程が窮屈であることは否めない。
このため、与党内では解散はパラリンピックが終わる秋以降ではないかとの見方が大勢だ。自民党の二階俊博幹事長は4日のラジオ番組で「いますぐに解散しなければならない必要は何もない」と発言。公明党の山口那津男代表も6日、東京都内であった新春幹部会でのあいさつで「秋になると、来年(10月)の衆議院(議員)の任期満了が視野に入ってくる。衆議院の選挙がいつ行われるかということも、怠らず、備えを固めるべきだ」と呼びかけた。
21年9月には自民党総裁、同じ年の10月には衆院議員が任期満了を迎える。首相は昨年12月9日の記者会見で「国民の信を問うべき時が来たと考えれば、解散・総選挙を断行することにちゅうちょはない」と発言。「解散カード」をちらつかせながら、党内の求心力維持をはかることになりそうだ。(安倍龍太郎、松山尚幹)
禅譲?4選?
首相の党総裁任期満了が近づく今年は、次の総裁選に向けた「ポスト安倍」争いも活発化しそうだ。
首相は1日放送のテレビ朝日のインタビューで、次期総裁に意欲を示す岸田文雄政調会長について、「次の総裁選に出ると明確におっしゃっている。もうバットをぶんぶん振っている」と期待感を示した。
首相が岸田氏を有力な後継候補に位置づけるのは、安倍政権の路線を基本的に踏襲すると見ているからだ。秋波を送られた岸田氏は4日、「私自身が評価されたのであれば光栄なこと。次の総裁選挙に向け奮闘努力する」と応じた。
ただ、国会審議などを通じて政権批判がさらに強まれば、ポスト安倍に向けた首相の影響力が落ちる可能性もある。その場合、首相と反目する石破茂元幹事長の追い風になるとの見方も党内で出始めている。
内閣支持率が低下した昨年末の朝日新聞の世論調査で、石破氏は「ポスト安倍」候補でトップに。石破氏は1日、「透明性、誠実さを政治側が取り戻さないと政治不信は払拭(ふっしょく)されない」と語り、安倍政権と一定の距離を置く姿勢を改めて鮮明にした。
「ポスト安倍」レースには、衆院解散の時期も影響を及ぼしそうだ。安倍首相が解散しなければ、次の総裁は就任から間もなく衆院選を迎えることになる。党幹部は、発信力が課題とされる岸田氏では「選挙の顔にならない」と懸念する。
麻生太郎副総理や二階俊博幹事長は、党則を改正して首相の総裁任期を再延長する「安倍4選」論に言及する。首相周辺には、長期にわたって安定を保ってきた現政権の枠組み維持を望む声もある。
「4選は全く考えていない」。首相はそう繰りかえすが、党内では任期中の憲法改正実現を名目に、首相の総裁任期を1年限定で延長する「奇策」もささやかれる。(石井潤一郎)