[ニューヨーク 5日 ロイター BREAKINGVIEWS] – ミレニアル世代の新たな経済理論は、決して矛盾を抱える内容ではない。米大統領選の民主党候補指名争いの初戦となったアイオワ州党員集会では、この世代から出馬したインディアナ州サウスベンド市のピート・ブティジェッジ氏(38)が、ほぼ70代の他の有力候補を抑えて勝利した公算が大きい。
ブティジェッジ氏が掲げる経済政策の特徴は、政府支出を躊躇(ちゅうちょ)しないが、民間企業を邪魔者扱いはしないという点にある。これは単なる中道主義でなく、ベビーブーマー世代が縛られてきた経済学の偏狭な教義との決別だ。
コンサルティング会社マッキンゼーで勤務した経験があるブティジェッジ氏の経済政策は、勤労所得税額控除の拡大や2500万人を超える低所得労働者の賃上げのほか、セクター別交渉権の付与など21世紀型の政策を労組に持ち込むことで、3500万世帯の年間所得を約1000ドル増やすと提唱している。
同氏は、ヘルスケアや教育で政府の関与強化を望む半面、民間セクターを排除する計画はない。
これらの提案は、関連予算を全く手当てせずに、労働者への支援と企業利益押し上げの双方に直接的効果をもたらしてもおかしくない。エコノミック・ポリシー・インスティテュートの試算では、総需要がさえないことで2008-17年に年間5000億ドル(訂正)の経済的損失が生じた恐れがある。
資本コストを過去最低にするのではなく、消費者を豊かにする方向に政策を転換できれば、企業は需要増加に対応するための設備や新技術向け投資を積極化するだろう。また全米でブロードバンドや教育、職業訓練などに賢く投資すれば、米国の労働力の競争力を高められる。
一方、ブティジェッジ氏と指名を争う70代の候補らは当然ながら、次の世代に多くの借金を背負わせることに比較的無頓着だ。サンダース上院議員は、既に連邦予算のおよそ25%を占めている社会保障をさらに拡充させたがっている。サンダース氏が好むのは大学や医療費の無償化などあまり対象を絞らない歳出プログラムだが、タックス・ポリシー・センターによると、それは今後10年で財政赤字を18兆ドルも上積みしてしまう。
エリザベス・ウォーレン上院議員もサンダース氏と似た政策を打ち出しており、米紙ニューヨーク・タイムズの計算では30兆5000億ドルもの費用がかかる。ところがブティジェッジ氏の陣営は、同氏の政策なら財政赤字の拡大はもっと小さいと主張する。
サンダース氏とウォーレン氏が提唱する富裕層への課税は、額面通りに考えれば、恐らくブティジェッジ氏の提案よりも所得格差を減らし、大規模歳出の財源になる。そしてサンダース氏は、歳出を制約するのは歳入ではなくインフレだと説く現代貨幣理論(MMT)の支持者からの助言も受けている。
しかし富裕層向け課税は合衆国憲法違反と指摘される可能性があり、MMTは物価のコントロールを議会に委ねるなど論理の面で幾つか欠陥をはらむ。
ブティジェッジ氏は、自らを民主的資本主義者と称している。なぜなら政府が経済活動において一定の役割を果たす必要があるが、全部を引き受けるわけではないと信じているからだ。同氏の経済理論は、時代逆行的なライバルに比べて、未来の経済政策を暗示している側面が強そうだ。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)