Robert Cyran

[ニューヨーク 12日 ロイター BREAKINGVIEWS] – 伝染病は人類にとっての災難だが、製薬会社にとってもさほど良いものではなさそうだ。新型コロナウイルスの感染は拡大しており、検査薬の需要は強く、治療薬が待ち望まれている。しかし、重症急性呼吸器症候群(SARS)の感染拡大など今回に似た過去の事例では、治療薬やワクチンの研究には時間がかかり、製造コストは高く、販売価格に対する政治的な圧力もあり、期待されたほどの利益に結び付かなかった。 

新型コロナウイルス「SARS-CoV-2」の検査薬は、既にできている。この検査薬は、感染者の診断や隔離、感染源の追跡に不可欠だ。米製薬会社、メリディアン・バイオサイエンス(VIVO.O)が検査薬を開発したとの報道を受け、同社の株価は跳ね上がった。しかし、スイスのロシュ(ROG.S)やオランダのキアゲン(QIA.DE)など競合他社も検査薬開発にしのぎを削っており、利益率が圧縮されることが分かると、メリディアン株は反落した。今のところ、これら企業の株価はあまり動いていない。 

治療薬は検査薬に比べて競争が限られるため、もっと大きな収益性を秘めている。しかし、問題は薬の効力を証明するのに通常、何年間も要することだ。 

既存の抗ウイルス薬を用いた複数の実験が既に始まっており、米ギリアド・サイエンシズ(GILD.O)と米リジェネロン・ファーマシューティカルズ(REGN.O)も新薬の実験に着手したか、間もなく着手する見通しだ。これらのうち1社が見事開発に成功したとしても、製造には手間取る可能性がある。 

2009年のインフルエンザの感染拡大では、ロシュの治療薬・タミフルがヒット商品となった。しかし、同社は原料である香辛料の「八角」を十分な量で確保するのに苦心した。 

新型コロナウイルスの感染拡大を食い止める上で、長期的に期待されるのはワクチンだ。スイスの製薬大手・ノバルティス(NOVN.S)や米バイオ企業・モデルナ(MRNA.O)などが、開発に意欲を示している。 

だが、医薬品開発は困難な道のりであり、特にワクチンはウイルスが突然変異する可能性があるため厄介だ。 

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は11日、ワクチンが1年半後に入手可能になるかもしれないと述べたが、途中に支障が起きないとしてもこれは長い期間だ。伝染病のワクチンは大きな収益につながることがあり、ファイザー(PFE.N)は昨年、肺炎のワクチンで16億ドルの売り上げを達成した。 

しかし、2003年に感染が拡大したSARSはその後急速に姿を消し、以来人間への感染は確認されていない。SARS-CoV-2も同じ道をたどるかもしれない。 

一方、効果が証明された治療薬を高い価格で売り出すと、世間から白い目で見られる恐れがある。しかも、それは治療薬の発売前に、病気が消えていなければの話だ。 

エボラ出血熱では、小規模なバイオ企業がワクチンのライセンスを米製薬大手・メルク(MRK.N)に供与し、規制当局の承認も得られた。 

だが、大量に売れてはいない。要するに、新型コロナウイルスと闘う企業の評判は上りそうだが、それに比べて利益に結び付く可能性は低いということだ。 

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)