【北京時事】中国湖北省武漢市から感染が拡大した新型コロナウイルスによる肺炎をめぐり、状況が最も厳しい同省の感染者数が、診断基準の度重なる改定に伴い大きく変動している。20日に前日から1300人以上も激減したほか、21日には中央政府と湖北省の発表が食い違い、同省が訂正する混乱ぶりも露見。正確な実態把握や今後の予測に支障が出かねない状況だ。
同省衛生健康委員会の※遠超(※サンズイに余)副主任は21日の記者会見で、感染者急減に関し「データ調整が疑念を招いた」と言及。省トップの応勇・共産党委員会書記が「確定診断病例の除外は許されず、元に戻せ。担当者の責任を問え」と指示したと述べ、恣意(しい)的なデータ改ざんが行われていた可能性を示唆した。
中国衛生当局は、鼻の粘膜などからウイルスが検出された場合に感染者と認定。厳格な区分のため「実際の感染者は発表より多い」という指摘が絶えない。
湖北省は13日の発表分から基準を緩和し、肺のコンピューター断層撮影(CT)などの「臨床診断」でも感染確認を可能にした。同日は約1万3300人の臨床診断が加わり、一気に感染者が約1万4800人増加。同省は「(ウイルス検査を待たずに)患者が治療を早期に受けられ、救命率を高める」ためだと意義を強調した。
ところが政府は19日、わずか1週間で診断基準を再度変更させ、湖北省の特別扱いを廃止。同省の翌20日の新たな感染者は前日の1693人から349人に激減した。政府の記者会見で王貴強・北京大学第一医院主任は「湖北の状況が変わり、検査能力が大きく向上した」と説明した。
一方、湖北省が21日に発表した新たな感染者数は当初411人で、政府発表の631人と食い違った。同省はその後、刑務所内の感染者の報告に手違いがあったとして国の数字に合わせた。湖北省は14日にも100人以上の「統計上の重複」を差し引く訂正を行ったばかりだ。
1日当たりの感染者の増加幅は、湖北省以外で20日まで16日連続減。21日に増加に転じるまで中国メディアは「朗報」と連日報じた。王毅外相は20日、東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国の外相会議で、新型肺炎対策について「著しい効果が出ている」と胸を張った。
しかし、帰省先の農村にとどまる2億人超とされる出稼ぎ労働者はこれから徐々に都市部へ戻る見通しで、一層の感染拡大が懸念される状況は変わらない。香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは「中国で感染がピークを迎えたと主張することには慎重だ。予測に影響する感染例の定義、報告や検査の能力が変化しているからだ」という専門家の意見を伝えた。