安倍晋三首相は二日の参院予算委員会で、新型コロナウイルス感染拡大に備えた法整備について、既存の新型インフルエンザ等対策特別措置法を改正する方向で検討していることを明らかにした。同法は、首相が「緊急事態」を宣言することで、医療などに必要な物資の入手、施設建設のための土地の収用などで強制力を持つ。専門家には、国民の私権の制限につながると懸念する声もある。 (村上一樹)

 首相は「常に最悪の事態を想定し、あらかじめ備えることが重要だ」として、特措法と同等の措置ができるよう法整備を急ぐ考えを示した。

 特措法は二〇一二年に制定、一三年に施行された。新型インフルエンザが流行し、政府が国民生活に重大な影響が生じると判断した場合に、首相が緊急事態を宣言。都道府県知事が不要不急の外出の自粛、学校や映画館など人が集まる施設の使用制限、イベントの開催自粛などを要請できると定める。

 知事は医薬品や食品の売り渡しや保管の命令も可能で、応じない場合は罰則の適用もある。病院が足りない場合、土地や建物を借りて臨時の医療施設を設置。所有者が正当な理由なく同意しない時は強制的に使用もできる。

 政府はこれまで、新型コロナウイルスに関し、国会の議決が必要ない政令で対応してきた。重症急性呼吸器症候群(SARS)と同じように知事が患者に入院を強制できるようにしたり、発熱などの症状がない人も発症者と同様に扱えるようエボラ出血熱など最も危険性が高い感染症並みの措置も可能にしてきた。

 首相によるこれまでのイベント自粛や臨時休校の要請も、法律に基づかない首相・政府の独断による措置だった。政府関係者は、新型インフルエンザの特措法は民主党政権時に制定されたことも踏まえ、その改正であれば「一週間もあればできる」とみている。

 日弁連は特措法制定時に「人権に対する過剰な制限がなされる恐れがある」との反対声明を発表。当時の事務総長だった海渡雄一弁護士は法整備について「感染症予防で人権制限をするには、節度と正確な事実把握が大事。後手後手の政府が突然、言い出した印象で、まずは法律がなくてもできるPCR検査をきちんとするべきだ」と話している。