安倍晋三首相は4日、新型コロナウイルス対応をめぐって野党5党首らと個別に会談し、協力を求めた。野党に接近することで与野党を超えた結束を示し、批判を回避したいとの思惑も透ける。立憲民主党などは法案審議に協力する姿勢を示したが、政府のこれまでの対応に不満を抱いており、追及姿勢は当面維持する考えだ。
外出・集会制限、土地収用も 私権制限に根強い懸念―新型インフル特措法
「新型インフルエンザ対策特別措置法の改正に協力をいただきたい」。首相は立憲の枝野幸男代表との会談でこう切り出した。枝野氏は審議には協力すると明言したが、賛否には踏み込まなかった。この日、法改正に賛成と首相に伝えた野党は日本維新の会のみだった。
立憲など主要野党は連日の国会審議で、小中高校などの一斉休校による現場の混乱、マスクの供給不足、ウイルス検査体制の不備などをめぐって攻勢を強め、政府は防戦を強いられている。
首相は参院予算委員会で2020年度予算案の審議が始まった2日、公明党の山口那津男代表に電話し、野党党首と会談して立法措置への協力を求める意向を伝えた。与野党党首会談は16年4月の熊本地震の際以来で、首相には局面を変える意図もあるとみられる。自民党内からは「非常事態という雰囲気が出る」(中堅議員)と歓迎の声も聞かれた。
党首会談で、野党側は「政府の発信が国民の不安を広げている」(枝野氏)、「休校要請の際に専門家の意見を聞かなかった。政治判断では国民の理解が得られない」(共産党の志位和夫委員長)などと批判や注文を突き付けた。
枝野氏は記者団に「できることは最大限協力したいが、問題があれば厳しく指摘しなければならない」と首相をけん制。ウイルス感染を抑え込む見通しが立たない現状では、政権への全面協力は得策ではないとの判断もありそうだ。
4日の参院予算委では、厚生労働省が新型インフル特措法に基づく政府行動計画について、実施要綱を一部改正して新型コロナウイルスの対応に活用していると明かした。かねて特措法の運用見直しで新型コロナウイルスにも対応できると主張してきた主要野党は「現行法でそのままいける」(国民民主党の玉木雄一郎代表)との認識を強めており、首相が目指す「与野党協調」は見通せない状況だ。