【北京時事】4月上旬で調整されていた習近平中国国家主席の国賓としての日本訪問の延期は、習氏にとって全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の先送りに続く大きな政治的ダメージになった。湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス感染による肺炎拡大で批判を受ける習氏は、訪日を通じて挽回を目指していたが、チャンスを逃した形だ。

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 「双方が密接な意思疎通を保ち、習主席の訪日が最良の段取りになると信じている」。中国外務省の趙立堅副報道局長は5日の記者会見で「延期」の明言を避けた。趙氏の慎重な言い回しは、習氏の訪日に対する中国側の期待感の大きさを物語っていた。

 習氏は、米国のトランプ政権との対立が深まる中、「米国の対中包囲網に穴を開ける」(中国の日本専門家)ことを狙い、日本に接近してきた。新型肺炎が拡大した後は、感染封じ込めにめどを付けた上で日本を訪れ、内外に「中国の安定」をアピールしたいという思惑も加わり、対日外交の重要性がさらに増した。

 このため、新型肺炎が中国全土に広がり、訪日が危ぶまれるようになっても、習指導部は訪日実現の可能性を探っていた。中国メディアは日本による肺炎対策の支援を好意的に取り上げ、習氏の訪日に向けて世論を盛り上げてきた。全人代の延期が2月17日に事実上決まると、中国内でも「訪日延期やむなし」のムードが広がったが、中国側は表向きは訪日実現を目指す姿勢を崩さなかった。

 だが、1月下旬以降、感染拡大の影響で、訪日に向けた日中間の調整作業は大半がストップした。習指導部は日中共同声明などに続く「第5の政治文書」の作成に積極的だが、文案を詰める作業は宙に浮いたまま。仮に4月の訪日を強行しても、「大きな成果を期待できない状況」(日中関係筋)に陥っていた。

 習氏としては当面、全人代を早期に開催することが最優先の課題だ。感染の勢いが鈍っているとはいえ、湖北省では5日、134人の新たな感染者が確認され、北京でも1人の感染者が出ている。終息の時期を見通すことは困難で、全人代開催のタイミングも見えていないのが実情だ。