読売新聞オンライン

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、吉村洋文・大阪府知事と井戸敏三・兵庫県知事が19日に打ち出した大阪―兵庫間の往来自粛。決断の背景には、最悪の場合、2週間後には両府県の感染者が3300人に達するとの「試算」があった。人口集中地帯の大阪―神戸間は日頃から行き来する人が多く、住民からは驚きと戸惑いの声が上がった。

吉村知事「国側が提案」

 「専門家の提案を受け、事態を重く受け止めた」。吉村知事は19日夕、報道陣に自粛要請に至った経緯を説明した。

 根拠として挙げたのは、国から派遣された専門家から示されたとする「試算」だ。大阪、兵庫両府県では19日までの1週間で感染者が約80人増加。試算では、このまま放置すれば今後の1週間で最悪の場合、感染者が586人に増え、さらに1週間後には3374人に達するという内容だった。

 試算では、2週間後に重症者も227人に上るとされ、吉村知事は「この数字になれば、軽症者は病院で対応できなくなる」と、感染者数を抑制する必要性を強調した。

 ただ、大阪―兵庫間は同じ通勤・通学圏にあり、企業などの経済的な交流も活発だ。2015年の国勢調査によると、兵庫県から大阪府に通勤・通学している人は約33万3000人。大阪から兵庫に通う人も約11万人いる。JR西日本によると、東海道線の大阪―神戸間では18年度、1日平均約38万9000人が利用した。

 記者会見で吉村知事は、自粛要請の期間を専門家が提案した3週間から連休の3日間としたことについて、「大阪と兵庫は経済圏域が一体。完全にストップさせると大きな問題が出る」と述べ、経済的な影響を考慮したことを明かした。

 大阪市内の勤務先から兵庫県西宮市の自宅に帰宅途中だった会社員女性(46)は「両親が高齢なので、人混みを避けた経路で通勤しているが、どこから感染するかわからない不安はある。皆が協力していくしかなく、仕方がない」と理解を示した。

 兵庫県尼崎市から隣接する大阪市の職場に通う飲食店経営男性(74)は「20分ほどの距離で、この往来を自粛して意味があるのかという思いもある。気にせず外出する人もいるのではないか」と要請の効果への疑問を口にした。

 連休中に大阪市内に買い物に行く予定だったという神戸市灘区の無職女性(64)は「人との接触が少ない車の移動で、行く店も決めている。そうしたケースまで一律に自粛をする必要があるのか疑問。感染リスクは国内どこでもあり、なぜ兵庫と大阪だけが制限されるのか」と納得できない様子だった。

井戸知事は不快感

 大阪府の方針に対し、兵庫県の井戸敏三知事も19日夕、大阪など他地域との往来自粛を求める方針を打ち出した。ただ事前に大阪側から相談がなかったことを明かし、「大阪の知事も(兵庫と)言っているようなのであえて『大阪』と入れた」と不快感も示した。

 井戸知事は記者会見で、専門家から大阪と兵庫両府県での「内外の往来の自粛」を提案されたとして、「以前から不要不急な外出自粛は呼びかけている。『往来』という言葉で具体的な行動を例示した」と説明。「大阪はいつも大げさ。兵庫との往来さえしなければ済むのか」と、大阪が往来自粛の対象を「兵庫」に限ったことへの疑問も口にした。