新型コロナウイルス対策で、与野党の一部議員が提案する国会審議のオンライン化の検討が進まない。欧州の議会では、一部でウェブ会議や電子投票の導入が実現。国内でも、企業など社会の様々な場でオンライン化が進むのに、なぜ国会の腰は重いのか。
与野党の若手議員が「ハイブリッド国会」を提言
コロナ禍の国会のあり方について、一部の議員から問題提起はされている。12日の衆院議院運営委員会の理事会でも、共産党の理事が緊急事態宣言下で頻繁に本会議を開くことを疑問視し、「国会のあり方を議論すべきだ」と訴えた。
与野党の若手からは「オンライン国会」の検討を求める声が上がる。自民党の鈴木隼人衆院議員らは4月中旬、緊急事態宣言を受け、ネット中継を視聴すれば「出席」と認め、オンライン採決も可能とする「ハイブリッド国会」の実現を森山裕国会対策委員長に提案した。「国会が自らを変えなければ、遠くない将来に国会は機能しなくなる」と訴えた。
憲法かそれとも慣習か オンライン化を阻む壁は?
だが、森山氏は記者団に「憲法の定めるところによると非常に無理がある」と懸念を示した。オンラインによる遠隔出席や採決は、立憲民主党の若手も求めているが、今のところ与野党で議論が本格化する様子はうかがえない。
憲法は56条で「両議院は総議員の3分の1以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない」と定める。衆院規則にも「議場にいない議員は表決に加わることができない」とあり、オンライン化を認めない理由とされた。
ただ、憲法学者の中には「憲法公布時にはなかったオンラインでの出席が排除されるわけではない」として、衆院規則の改正でオンライン化に対応できるとの見方もある。
だが、議場への出席を議会活動の前提としてきた議員には、オンライン化への抵抗感は根強い。これまで感染防止策として与野党で合意できたのは、本会議や委員会の採決時以外は出席議員を減らす「間引き」にとどまる。
欧州で進む議会オンライン化の取り組み
欧州では一時的に国会の規則を見直すなどして、オンライン化を進める事例も相次ぐ。
英国では4月下旬から、議会下院でウェブ会議システム「Zoom(ズーム)」を審議の一部に導入した。下院700年の歴史で初めての試み。議場に入る約50人の議員は他の議員との距離を空けて座り、最大120人がズームで審議に参加する。議場にはズームで質問する議員の顔が映し出される。
ドイツ下院は3月下旬、議場での議員間の距離を保てるよう採決に必要な定足数を議員の過半数から25%に減らすことを決めた。在宅でのオンライン出席や電子投票も一部で認めた。欧州連合(EU)議会でも同じ頃、議会機能を維持するため、電子投票を導入した。メールで送られる投票用紙に議員が賛否やサインを記し、返信することで投票する。感染防止を優先する柔軟な対応が進む。(清宮涼)
■上田健介・近畿大法科大学院教授(憲法学)の話
英国やドイツの議会では伝統を尊重しつつ、「議会のルールは自分たちで決めるもので、必要があれば柔軟に変えていく」という意識が強い。いずれも新型コロナウイルスを受けた一時的な措置として規則を修正し、迅速な対応が可能になった。
日本の国会でもオンラインでの参加を「出席」とし、採決も認めることは憲法上可能だ。憲法は第58条で衆参両院は国会運営についての規則を定めることができる「議院自律権」を認めており、国会自身が判断する問題だからだ。オンライン国会について日本での議論が進まないのは、議員に「自ら議場にいることに意味がある」との意識が強く、従来のやり方にかたくなにこだわっているからではないか。
新型コロナ対策のために国会を開き、行政監視機能を維持するためにも、国会での密集を避ける対応が急務だ。国民に3密などの自粛を呼びかけながら、議員が改めていないのは説得力に欠ける。
緊急時の定足数の変更などのために憲法改正議論を進めようとする動きもあるが、筋違いだ。衆参両院の規則の改正や与野党の合意でできることは多い。まずは緊急の一時的な措置として、オンライン審議を認めるなど、時代の流れに沿った対応をするべきだ。(聞き手・清宮涼)