【ジャカルタ=一言剛之】新型コロナウイルスの感染拡大を巡り、独立機関による中国での調査を求めるオーストラリアが、中国の対抗措置とみられる動きに揺れている。豪州産の大麦に高関税が課される可能性が出ているのに加え、豪政府は12日、中国が豪州の食肉処理大手4社に対し、輸入停止措置を取ったと明らかにした。

◆輸出の35%

 サイモン・バーミンガム豪貿易相は12日の記者会見で、中国による輸入停止は食肉表示に関する技術的問題への対応だと説明し、「(中国側の)許可を得るために力を尽くす」と述べた。豪州の牛肉輸出のうち中国向けが4分の1を占める。豪公共放送ABCによると、4社は牛肉の対中輸出の35%を手がけており、食肉業界団体幹部は「非常に深刻に受け止めている」と動揺を隠せない様子だ。

 豪州では穀物生産者団体などが10日、豪州産の輸出大麦に中国が約80%の高関税を課す可能性があると明らかにしたばかりだ。バーミンガム氏は「不当な課税の可能性を憂慮する」との声明を発表したが、中国は19日までに関税を課すかどうか判断を示す見込みだ。

◆チューインガム

 中国のこうした動きに関し、ABCなど豪州メディアは、豪政府が新型コロナの発生源や感染拡大に関し、中国・武漢の研究施設からの拡散の可能性を念頭に調査実施の必要性を訴えていることへの報復との見方を伝えている。

 スコット・モリソン豪首相は4月23日、記者会見で発生源に関し「独立した調査が必要だ」と強調した。世界保健機関(WHO)加盟国の査察受け入れを義務付けるべきだとも主張している。

 これに対し、中国外務省の耿爽グォンシュワン副報道局長は、「国際的な防疫協力を妨害するものだ」と強く反発した。中国紙・環球時報の胡錫進フーシジン編集長はSNSに、「豪州は問題を起こす国だ。靴の裏にこびりついたチューインガムのようなものだ」と書き込み、不満ぶりを強調した。

◆5Gでも対立

 豪州は調査実施の姿勢を崩していないが、貿易を巡る中国の相次ぐ措置には不安を募らせている。最大貿易相手国の中国は、豪州の輸出入額の約4分の1を占めるからだ。モリソン氏は現状について、「両国にとって貿易は非常に重要で有益だ」などと述べるにとどめている。

 豪中の間では近年、外交面での摩擦が頻発している。

 次世代通信規格「5G」導入を巡っては、情報工作への懸念を深めた豪当局が中国企業を排除し、中国が不満を示した。

 豪州と歴史的につながりが深い南太平洋の島嶼とうしょ国では、中国が巨額の財政支援を通じて影響力を拡大しており、豪州も経済協力の拡大で対抗しようとしている。