新型コロナウイルスによる急な減収で、当座の資金繰りに悩む事業者を救う切り札とされる国の「持続化給付金」。1日に申請の受け付けが始まり、件数はすでに70万件を超えたが、振り込み済みは約2万7千件にとどまる(11日現在)。中小企業庁は申請から給付までは「2週間がめど」とするが、殺到する申請に審査が追いつかず、給付が遅れるケースも出てきそうだ。

 持続化給付金は、今年に入ってから1カ月の売り上げが前年同月より50%以上減った事業者を国が支援する制度。資本金10億円未満の企業や個人事業者が対象で、個人は100万円、法人は200万円が給付の上限額だ。

 1日からオンラインで受け付けが始まったが、第1陣の申請者には1週間ほどで給付されるとの見通しが示されたため、初日の申請は約5万6千件に。アクセスが殺到し、つながりにくい状態となった。

 政府は給付金について、用途を限定せずに使える「再起の糧」と説明。4月末に成立した補正予算に関連費用を盛り込んだ。150万件の申請に対応できる見通しだが、2週間で申請はすでに70万件(約330億円)を超えた。

 中小企業庁によると、審査は受け付け順。今後申請はさらに増えるとみられ、申請から給付までの期間が延びる可能性がある。総務課の担当者は「なるべく早い支給を目指す」と話す。

 「オンラインでの申請は難しい」という声もあり、同庁は16日までに全都道府県に支援窓口を設ける。「3密」を避けるため予約制とし、担当者の説明を聞きながらその場で申請できる。14日には大阪、京都、神戸、岡山、広島、鳥取、松江、高松などの各市に窓口が開設される予定だ。

「焼け石に水」でも「1日も早く」

 様々な業種の人たちが、持続化給付金の支給を待ち望んでいる。

 神戸市北区ですし店を営む男性(59)は13日朝、インターネットで口座を確認した。「がっかり。焼け石に水とはいえ、大事な大事な当座の100万円。まだ入っていないのか」

 給付金は受け付け初日の1日に申し込んだ。仕入れ代やパートの給料、家賃に充てるためだ。

 3月は送別会や総会のシーズンで、1年間のうちで断トツに収入が多い。だが、3月前半の宴会や仕出しはすべてキャンセル。「これだけで90万円くらいの売り上げがとんだ」。4月は宴会がゼロ。緊急事態宣言の出た同7日から夜の営業はしていない。

 1995年の阪神大震災の時は、水槽やビール瓶が割れ、周辺で液状化現象が起きた。「あのときの絶望的な状況と比べたら物資もあるし、ライフラインも保たれている。そう思ってめげずにやるしかない。神戸の人間だからね」

 大阪府八尾市のうどん店の男性店主(52)も今月1日に給付金を申請したが、まだ入金されていない。「一日も早くほしい」とぼやく。

 4月18日から休業していたが、ゴールデンウィーク明けの今月7日から営業を再開。しかし、客足は思うように戻っていない。「リーマン・ショックの時よりはるかにきつい。今回はウイルス相手だから、飲食店には厳しいよ」

 神戸市長田区にある酒屋の男性店主(46)は近く、給付金を申請するつもりだ。

 飲食店への販売が売り上げの85%を占めるが、取引先の店が相次いで夜の営業を中止し、配達や宅配便送りが一気に止まった。春は歓送迎会シーズンで稼ぎ時だが、4月の取引先への販売額は昨年同月の8割減となった。

 取引店の4割は三宮の繁華街にある。「地域密着の昼メインの店への配達はそこそこあるが、買い物客や会社員頼みの繁華街はめっきり」。一方、家飲みが増え、個人客は倍増したという。

 インバウンドでにぎわっていたホテルの経営者も給付を待つ一人だ。

 アジアや欧米からバックパッカーが集まる大阪市西成区の「ホテル東洋」では、1月後半から客が減り、その後の予約はほぼキャンセルされた。緊急事態宣言が出され、日本人の予約も入らなくなった。

 現在の宿泊客は、ネットカフェの休業で居場所を失った人や、仕事で日本に長く滞在する外国人だ。

 浅田裕(やす)広(ひろ)社長(43)は「うちは宿泊客の9割は外国人。4月の売り上げは7割減った。このままでは維持できない」と声を落とす。今月7日、給付金を申請した。従業員7人の人件費だけで月80万円かかり、修繕費のローンもある。「給付金は運営費で消えてしまう」

 外国人と交流できる拠点を残したいと、同ホテルは今月2日から100万円を目標にインターネットで支援を募り始めた。すでに約50万円が集まったという。

 大阪市住吉区にある会員制の社交ダンス練習場「AZ(アゼット)」は、4月20日から休業が続く。練習場は約720平方メートルの広さがあり、固定資産税は年間100万円を超える。運営会社の川崎卓哉社長(44)は今月1日に給付金を申請し、給付を待っている。

 「税金を払うお金ができるのはありがたい」と川崎さん。「子どもからお年寄りまで楽しみながら健康を維持できるのが社交ダンス。早く再開して交流の場をつくりたい」(小林太一、市原研吾)