検察官の定年を延長する検察庁法改正案に抗議する声が広がっている。内閣が恣意(しい)的に検察人事に介入する懸念をはらんでおり、問題の多い法案だからだ。

 その象徴が「#検察庁法改正案に抗議します」とのハッシュタグをつけたツイッターの投稿の広がりだ。類似の投稿を含め、先週末だけで450万件に上った。

 ところが、政権は反対の声や懸念に向き合っていない。

 13日の質疑は、本来答弁すべき森雅子法相は出席せず、衆院内閣委員会で行われた。国家公務員の定年引き上げ法案と一括で審議されているためだ。

 武田良太・国家公務員制度担当相は「本来法務省からお答えすべきだ」と繰り返し答弁し、質疑は何度も中断した。これで、週内に委員会で採決しようというのか。

 改正案の最大の問題は、政府が「公務の運営に著しい支障が生ずる」と判断すれば、検事総長らが定年後も最長3年間職にとどまることができる特例だ。

 この規定は、法務省が昨年秋に作成した原案にはなかった。

 政府は1月、定年間近だった黒川弘務・東京高検検事長の定年延長を閣議決定した。検事総長への道を開くための脱法的な手法だと批判された。その後、閣議前に法解釈を変更していたと説明した。

 改正案は2022年4月施行で、政府は黒川氏とは無関係だと主張する。だが、改正案は一連の法解釈の変更や閣議決定に法的にお墨付きを与えることになる。しかも、検事総長は政権の意向で68歳まで留任が可能になる。

 検察庁は一行政機関だが、捜査権限を持ち、起訴権限をほぼ独占している。強い権限を持つだけに政治的な独立性を保たねばならない。特例規定により、検察庁の幹部人事を内閣が事実上一手に握ることになる。容認できない。

 新型コロナウイルスへの対応で、与野党は協力が求められている。ツイッターの広がりは、政治対立を生むことが確実な法案をどさくさまぎれに進めようとすることへの、疑問や怒りの反映だろう。

 野党は特例規定を削除する修正案を出した。政府が早期成立にこだわるなら、削除を受け入れれば済む話だ。与党は数を背景に、一方的に推し進めてはならない。